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 科学知識を問う定番のクイズの一つに、

「抗生物質はウイルスをやっつける」は正しいか、それとも誤りか?

 というものがあります。正解は×です。誤りです。抗生物質はウイルスには効きません。抗生物質が殺すのはウイルスではなく細菌です。○か×で答える問題なのに、多くの人に回答してもらう調査では正答率が50%を下回るときもあります。2019年に行われた調査では、正解は約23%、不正解が約64%、わからないが約13%でした。あてずっぽうで答えるより成績が悪いのです。

 ただ、多くの人が間違えてしまう理由には心当たりがあります。かつて、風邪に対して抗生物質を処方する医師がいました。いまでもいます。普通の風邪の原因の多くはウイルスですし、ほとんどの場合は薬を使わなくても自然に治ってしまうので抗生物質は必要ありません。単に必要ないだけではなく、副作用が生じたり、薬が効きにくい耐性菌を生みだしたりする、不適切な診療です。

 そうした不適切な診療がされていたことが、ウイルスに抗生物質が効くという誤解を広げた原因の一つかもしれないと私は考えています。ヨーロッパ諸国よりも日本では正答率が低いのだそうですが、各国の不適切な抗生物質の処方頻度と正答率の関係を知りたいものです。

 抗生物質が効かない一方で、ウイルス感染に効く薬はあります。インフルエンザは細菌ではなくウイルスが原因で起こりますが、インフルエンザと診断されれば、たいていの場合、タミフルやリレンザといった薬が処方されます。新型コロナウイルスに対しても、アビガンなどの薬の効果が期待されています。タミフルやアビガンは抗生物質ではありません。ウイルスに効く薬は「抗ウイルス薬」と呼ばれて、抗生物質と区別されています。細菌とウイルスは違うので効く薬も違うのだ、と覚えておいてください。

 たまに、細菌感染症に対して処方された抗生物質を全部使わずに残しておいて、別の機会に使う患者さんがいらっしゃいます。これは二つの理由でよくありません。一つは、処方された抗生物質は飲み切って使うのが原則で、残してはいけないからです(副作用が生じたなどの事情がある場合は別)。中途半端に抗生物質を使うと薬剤耐性菌が生じるおそれがあります。症状が治まっても指示された通り最後まできちんと飲み切るよう、お願いいたします。

 二つ目の理由は、次の機会のときにその抗生物質が適切であるとは限らないからです。ウイルス感染であれば抗生物質は効きませんし、細菌感染症だったとしても前回処方された薬が効くとは限りません。どの組織にどんな細菌が感染しているかによって使うべき抗生物質や使用期間が変わります。症状がつらいときは余った薬を飲んだりせずに、あらためて医療機関にご相談してください。

※参考:抗菌薬意識調査レポート2019(http://amr.ncgm.go.jp/pdf/20190924_report.pdf別ウインドウで開きます

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信>http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/

酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。