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 新型コロナウイルス対策で始まった国民1人一律10万円の特別定額給付金。もらえるはずなのに「受け取れない」という人が出てきています。世帯主の口座に家族全員分が振り込まれる仕組みがひとつの壁になっているようです。早く給付するためでしたが、自治体では混乱も起きています。今回の給付方法、みなさんはどう考えますか?

世帯主宛て?疑問噴出

 特別定額給付金の10万円は、原則として世帯主の口座に家族全員分が振り込まれます。

 この給付方法が決まると、直後からツイッターでは「世帯主ではなく個人に給付して」と声が上がりました。実際に申請や給付が始まると、「父親が『世帯主宛てなんだから世帯主が全て受け取るべきだ』と言い始めた」「もう給付されてるはずなのに1円ももらってない。世帯主はパソコン買おうかなとか言ってる」といった実態が書き込まれています。

 DV(家庭内暴力)や性暴力の被害者を支援するNPO「ハーティ仙台」の代表理事、八幡悦子さんのもとには「夫が独り占めした。子どもの分も合わせると、離婚のための別居資金にできたのに悔しい」といった訴えがあるそうです。

 夫からDVを受け、10年ほど前に家を出たものの住民票を移していなかった女性からは「公的窓口から『10年も経っているから証明はできない』と言われた」と相談がありました。女性は転居先を知られることを恐れて届け出ができなかったそうです。女性からその後も相談を受けて事情を理解している八幡さんがDVについて証明する書類を書いたところ、女性は個別に申請できることになりました。八幡さんは「それほど怖い思いをして、長年住民票を移せていない人がいる現実は、まだ十分に知られていない」と話します。「世帯主ではなく、個人宛てにすれば混乱せずに済んだのにと思います」

 内閣府が開設し、電話やSNSでも相談を受ける「DV相談+(プラス)」にも、世帯主である配偶者や親から暴力を受けていて給付金を受け取れるか不安だ、といった相談が寄せられているそうです。(山本奈朱香

家族の多様化 直視して

 ◆家族法に詳しい榊原富士子弁護士の話

 今回の給付金は、DV被害で別居している配偶者などを例外として、受け取る権利のある「受給権者」を住民票の「世帯主」に限定しました。個人に権利はあるけれど便宜上、世帯主が家族の分をまとめて受け取る形とは、根本的に違います。

 たとえば世帯主が家族の分まで遊興費に使い込んでしまったとして、返してほしいと配偶者が世帯主を裁判に訴えたらどうなるでしょうか。受給権が個人にあれば返してもらえそうですが、今回は受給権が世帯主にあるため難しいでしょう。別居や破綻(はたん)している夫婦間の生活費である婚姻費用(民法760条)として請求する方法などが考えられますが、破綻していない同居の夫婦ではとれない方法です。世帯主への支給は便利な半面、家族間のトラブルを増やす要因となっています。

 この制度設計のおおもとには、高度成長期まで中心であった、男性が家計を支える片働き世帯を標準的な家族の形と政治家がまだ錯覚しているという問題があります。統計をみれば現在、最も多いのは単独世帯です。夫婦世帯もすでに1990年代後半から共働きが片働きを上回り、現在は2倍以上です。そして夫婦間暴力や、親から子、子から老親に対する虐待など家族の問題も深刻です。家族の悩みをかかえる人々の気持ちに寄り添い、多様化している家族のありようを政治が直視するなら、個人単位での支給になるはずです。

 世帯単位か個人単位か。それは社会のありようと結びついて、長らく議論されてきた問題です。85年に国際会議で採択された女性の地位向上のためのガイドラインでは、法律や調査において「世帯主」というような用語を廃止する必要があると指摘されています。法律や各種の調査などにおいて扶養者や世帯主は男性であるという前提になっており、女性の経済的独立を妨げているという考えからです。米国では70年代から「世帯主」の用語を廃止する動きが起きました。

 そもそも日本のように戸籍制度をもち、住民を「世帯単位」で把握するやり方は、世界でみれば例外的です。児童手当の支給など世帯単位で把握する意味はあると思いますが、今回のような一律給付は、個人が受け取れるやり方にするべきです。(聞き手・岡林佐和)

居心地の悪さ 妻も夫も

 立命館大専門研究員の横田祐美子さん(33)は研究者の夫(31)と事実婚をしています。婚姻届は出していませんが、同居する際、住民票の世帯主を決めなければならず、夫にしました。「どちらかを『主』にすることで、序列や上下関係を生んでいる気がします」と違和感を口にする横田さん。今回、横田さんの10万円は夫の口座に振り込まれます。

 夫は横田さんに「『ありがとう』とか言わずに『当然だろ』という感じで受け取ってほしい」と言いました。思わず「気遣いありがとう」と返すと、夫は「そういうことも言わないで」。結局、何も言わずに机に置いておいてくれることになりました。

 横田さんは「国は、個人ではなく世帯や家族をベースに考えているのだと思う。お金を受け取る以上、お礼を言わなければいけないと感じてしまう。そこにフラットな関係を阻む問題があり、お互いに居心地が悪い」と話します。

 お金を受け取れるか不安に感じている人もいます。

 東日本に住む女性は、夫から経済的なDVを受けてきました。夫は高収入で自分だけ国内外の旅行に行く一方、生活費を月に数万円しか渡してくれません。家計は常に苦しく、女性はパートなどをして生活費や子どもの学費に充ててきました。

 2009年にリーマン・ショック対応として支給された定額給付金は、世帯主の夫の口座に家族全員分が振り込まれましたが、夫は旅行などで1人で使ってしまいました。

 今回は1人10万円と聞いてホッとしたのもつかの間、給付はやはり世帯単位。今回も不安に思っているそうです。「これからは個人宛ての給付金は、世帯主一括振り込みはやめて頂きたい。親も子どもも個人の尊重が大事だと思います」(山本奈朱香

尊厳守れぬ■困窮者が先では

 朝日新聞「#ニュース4U」のLINE友だちへのアンケートに寄せられた声を紹介します。

 

●入金されたかも分からない

 うちは、高齢の父親が世帯主。

渡してもらえるかどうか、入金されたかどうかすら分からない。(大阪府・40代女性)

●オンライン申請できなかった

 事前説明では、マイナンバーカードがあればオンライン申請ができるとのことだった。しかし実際は、パソコンはカードリーダーが必要、スマホは機種に制限が課されており、オンライン申請ができなかった。政府も説明が不足していたと思う。学生は資金面でさほど余裕がなく、容易に機種変更ができない。しかし、機種により選別が行われるのは、強い不公平感を感じさせ、不満がある。(石川県・20代男性)

●母の給付金めぐり夫と口論

 高齢のお母さんと暮らす友人が、世帯主である夫とお母さんの給付金をめぐり、けんかしたそうです。友人の夫は「面倒をみているのだから一家の家計の足しにしていい」と考え、友人は「最近、うつ傾向がある母親に楽しい思いが出来るように使わせてあげたい」と考えていた様子。世帯主単位で支給する考え方では、個人の尊厳を守れない。マイナンバーに頼らなくても、個人に対処するやり方はあったはず。(山梨県・60代女性)

●マイナンバーカードあるのに

 私はマイナンバーカードを持っているが、夫が持っていないため郵送申請になった。今の時代、世帯主のみ申請というのはおかしい、昭和初期の発想としか思えない。せっかくマイナンバー制度を作ったのだから、個人で申請出来るようにするべきだ。(新潟県・40代女性)

●まだ男尊女卑の考えある

 ニュースで世帯主に一括して渡すと知り、家族で話し合い、それぞれに10万円ずつ渡すと決めた。だがあまりニュースにならなければ世帯主が自由に使うのではないか。男女雇用機会均等法ができても、男尊女卑の考えがあるように思う。

(香川県・50代女性)

●貧困状態の人たちを第一に

 個人としては今回の給付はありがたい。しかし貧困状態にある方々を第一に考えた政策を期待する。ブルーインパルスの飛行も医療従事者を勇気付けたとは思うが、その分の予算を貧困状態にある方々にまわす方が良かったのではないか。(宮城県・30代男性)

●行政手続きの簡素化が課題

 給付のスピード重視で、さらに今回のコロナ禍に対し、複数の給付金や支援制度があることなどを考えると、世帯主への給付はある程度は評価できる。手続きの簡素化は、他の行政手続きも同じ課題があると思います。(群馬県・40代男性)

●あまりにも遅い

 10万円給付は良いと思います。何もないよりマシです。我が家はシングルマザー家庭なので助かります。しかし、給付があまりにも遅いです。我が家にはまだ申請書も届いていません。給付するのであれば、もっと早くないと意味がないと思います。マスクもまだ届いていません。このまま届かなかったら政府にだまされたも同然だと思います。(京都府・10代女性)

●夫を信じたいが……

 大人3人で生活しています。主人の口座に振り込まれ、その後それぞれに渡してくれるものと信じていますが…夫とこの件について話してはいません。(大阪府・50代女性)

●話し合い、絵空事

 家族単位にすべきでない。DVで逃れている人たちが身近にもいる。夫側に渡ったら戻らない。話し合いでというのは絵空事。各個人が、窓口で受け取れるようにすべきだ。(東京都・60代女性)

●負債、返すのは私たちの世代

 この10万円はいま必要であることに間違いはないが、これを返していかなければならない世代であるということを自覚しなければならない。私より上の世代の人たちもまた新たに多額の負債を未来に積み重ねたことを考えなければならないと思う。(山梨県・10代女性)

自治体 作業追いつかず

 給付手続きを担う全国の市区町村の窓口はいま、様々な家族の形態に複雑な対応を迫られています。

 東京都内のある自治体では、世帯員を手入力するオンライン申請で間違いが多発しました。同居していても別世帯の両親の分まで申請してしまったり、逆に同一世帯なのに入力漏れがあったり、という事例が散見されたそうです。担当者は「今まで多くの人が『世帯』を意識せずに暮らしていたのだろう」と言います。

 明らかな暴力や虐待はなくても、家族の問題は多様で複雑です。「公的機関などにDV被害の相談をした例は別として、単なる不仲とみられるケースで個別支給を求める相談もある。自治体の判断だけでは細かに対応しかねます」と担当者。世帯主への一括支給は「現行制度下では賛成とも反対ともいえません」。個別給付になった場合、口座を持たない幼い子などへの振込先をどうするのかといった新たな課題も出てくるからです。

 給付金は4月27日時点で生存している人が支給対象。単身世帯の人が申請手続きをしないで同日以降に亡くなった場合、給付対象から外れます。高齢者施設に入る際に住所を移して単身世帯となり、基準日以降に亡くなった人の家族から「これまで扶養してきたのだから代わりに受け取れないのか」といった相談もあるそうです。一方で、同一世帯なら亡くなった人の分を残された世帯員や世帯主が申請できる仕組みです。

 また、住所が定まらない人を現在居住する自治体で住民登録して支給につなげる動きがありますが、他の自治体で二重登録をしていないかなどのチェックが難しいといい、担当者は「住民基本台帳の役割を考えると登録ばかりを急ぐわけにもいかない」と指摘します。(伊藤恵里奈)

     ◇

 給付金が世帯主に一括で振り込まれると決まった時、驚きました。これまで何度も批判されてきたやり方だからです。さらに、難民申請中の人が受け取れない場合もあり、ホームレスの人も支援がなければ申請は難しそうです。安倍晋三首相は会見で「国民との一体感が大切。その思いで、すべての国民に一律に1人あたり10万円の給付を行う」と話しました。でも、本当に困っている人が受け取れず、逆に分断されるのではないかと心配です。様々な環境に置かれた一人ひとりにお金をきちんと届けられるかが、安心して生きられる社会を作れるかの試金石になるのではないでしょうか。(山本奈朱香