拡大する写真・図版男が「俺コロナだぞ」と言って職員につばを吐きかける事件があった、愛知県東郷町の施設「いこまい館」=2020年6月3日午後、同町、柏樹利弘撮影

[PR]

 「俺はコロナだ」。愛知県内で、新型コロナウイルスに感染をしているかのような発言をして逮捕される事件が相次いでいる。いったい何が起きているのか。

 3月以降、愛知県警は威力業務妨害や脅迫などの容疑で7人を逮捕、1人を書類送検した(うち1人は不起訴処分)。逮捕、書類送検された7人は、いずれも男。年齢は大半が40~70代だ。

 名古屋市に住む男(54)は5月15日、同市内の路上で「コロナばらまくぞ」と言いながら住民に息を吹きかけたとし、脅迫容疑で逮捕された。

 同じ日、住居不定の無職男(63)も愛知県東郷町の公共施設で「俺コロナだぞ」と言いながら職員につばを吐いたとして、威力業務妨害容疑で逮捕。その後、暴行罪で起訴された。

拡大する写真・図版愛知県内の「コロナ」事件の一覧(不起訴を除く)

 こうした事件は、松江市や宇都宮市など各地で発生。しかし、愛知県で逮捕、発表される件数が突出している。県警幹部は「この社会情勢下では、たった一言の悪ふざけでも悪質性は非常に高い。逮捕、発表することで抑止につなげるのが重要だ」と強調する。

 県警が神経をとがらせる理由のひとつは、3月に蒲郡市で起きた事件がある。一斉休校が始まって間もない同月4日、新型コロナウイルスへの感染が確認され、自宅待機を要請された男(当時57)が、市内のフィリピンパブを訪れた一件だ。

 男は自宅を出る前、家族に「コロナをばらまいてやる」と発言していた。後に店員の女性の感染が発覚したことなどから、テレビは繰り返し、男が店内でカラオケを熱唱する様子を放映した。

 店は騒動の影響で1カ月近く営業を自粛。多くの従業員が店をやめ、来店客らも自宅待機を余儀なくされた。経営者の安田知洋さん(45)によると、見込んでいた売り上げ600万円が失われたという。

 この店以外にも、事件があった家電量販店やマッサージ店、公共施設などは、いずれも消毒などで一時業務ができなくなっている。

「ゆがんだ自己顕示欲あるのでは」

 愛知県内で「コロナ」発言による逮捕者が多発するのは、県民性に関係があるのか。SNS上では、「不謹慎な冗談を好む」といった投稿も見られたため、県民性に詳しい経営コンサルタントの矢野新一さんに取材した。矢野さんは「愛知はものづくりが盛んで真面目な県民性。県民性と事件とは結びつかない」と否定した。

 一方、逮捕者は全員が男で、中高年が目立つのも特徴だ。

 東京未来大の出口保行教授(犯罪心理学)は、「背景にはゆがんだ自己顕示欲があるのではないか。国民の不安に乗じてコロナをちらつかせることで、他者に恐怖を与え、それが自分の存在を認識させる手段となっている」と分析。さらに、「中高年は社会的な評価を最も求める年代。社会に対する恨みを晴らす犯行とも言える」と指摘する。(柏樹利弘、小松万希子)