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知りたい民間療法(6)

 前回の記事で、薬だけでなく健康食品などの民間療法(補完代替療法)も、臨床試験で有効性が証明されていれば「効く」と言うことができると説明しました。ただ、「効く」を読み解く際の注意点が二つあります。今回は、効果が証明された「効く」民間療法に関する情報の読み解き方を深掘りしてみます。

臨床試験の結果を吟味する

 薬にしろ民間療法にしろ、その効果の裏付けとなる情報として一番信頼性の高いのが「ランダム化比較試験」による研究結果になります。ランダム化比較試験とは、対象者をランダムに二つのグループに分けて、一方には評価しようとしている治療、もう片方には異なる治療(通常、現在行われている標準的な治療)を行い、一定期間後に評価しようとしている指標について比較検討する方法です。

 皆さんも知っている「特定保健用食品(トクホ)」もランダム化比較試験によって効果が証明されています。

拡大する写真・図版ランダム化比較試験

 そして、データ解析した結果をグラフにしたものがこちらです。

拡大する写真・図版トクホ・機能性表示食品の臨床試験

 さらに、このグラフを読み解く上でのコツが「PICO(ピコ)」になります。初めて聞いたという人が多いかもしれません。

 「PICO」は具体的には次のようになります。

① P(Patients:患者[対象者]): 誰に

② I(Intervention:介入):何をすると

③ C(Comparison:比較):何と比較して

④ O(Outcome:結果):どうなるか?

 それぞれの英語の頭文字をとって「PICO」となります。今回、例として挙げたトクホのランダム化比較試験の結果をPICOで整理してみます。注目してもらいたいところを赤字にしています。

拡大する写真・図版PICOとは

 ランダム化比較試験で得られた結果は、その臨床試験を実施したときと同じ条件の人が、同じ条件で利用した場合にのみ、同様の効果が得られる可能性があることを意味しています。ですから、「中性脂肪が気になる方へ」と表示されたトクホを、脂質異常症といった薬での治療が必要なぐらい中性脂肪が高い人が利用した場合、効果が得られるかどうかわかりません。また、トクホをたくさん摂取すれば効果が高くなるかどうかわかりません。

 もちろん、トクホをたった1回利用しただけで効果が得られるかどうかもわかりません。そもそも、トクホを毎日利用しても、中性脂肪の数値を低くする効果はプラセボを比べて、ごくわずかです。

 ランダム化比較試験で有効性が証明されれば、健康食品であっても「効く」と言うことができます。ですが、「どのような条件の人が」「どのように利用した場合」「利用しなかった場合と比べて」「どれくらいの効果が得られる可能性があるのか」という『PICO』で整理するコツを身につけると、その情報が自分自身に、どれくらい役に立つのかの判断がしやすくなります。

「医療の不確実性」って知っていますか?

 PICOで情報を整理した上で、いざ健康食品などの民間療法を試してみようと判断したときに、知っておいてほしいことが、もう一つあります。それは、たとえランダム化比較試験で有効性が証明された治療法であっても、効く人もいれば効かない人もいるということです。

 読者の皆さんの中にも、持病があって薬を内服している人はいませんか。そして、同じ薬を使っても、「ほかの人には効いているのに、私には効かなかった」といった経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。その逆のパターンのケースもあるかもしれません。

 つまり、「効く」治療法(民間療法を含む)を100人におこなっても100人全員が効果を得られるわけではないのです。これを「医療の不確実性」といいます。

 ノーベル生理学・医学賞を受賞したような薬であっても残念ながら万能薬ではありません。もちろん、健康食品などの民間療法も同じです。

 前述のトクホの例でも、中性脂肪が下がった値は、臨床試験に参加した人の平均値です。個人の値の変化を見れば、中性脂肪が平均値以上に下がった人もいれば、全く変わらなかった人、場合によっては上がってしまった人もいるかも知れません。

 今回、解説したランダム化比較試験で有効性が証明された「効く」民間療法に関する情報の読み解き方における二つの注意点を整理します。

 注意点(1):ランダム化比較試験の結果を「PICO」で整理して自分に当てはまるのか見極める

 注意点(2):たとえPICOが合致していても「医療の不確実性」は避けて通れない

 その点を踏まえて、「効く」民間療法(補完代替療法)との向き合い方を考えてもらえたらと思います。

大野智

大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、日本緩和医療学会ガイドライン統括委員(補完代替療法分野担当)も務める。

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