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 高校野球は各地で球音が戻り始めているとはいえ、まだコロナ禍以前のようにはいかない。地域や公立、私立によって活動状況に差があるため、練習試合の相手を探すのも一苦労だ。

 夏の全国選手権大会に2年連続出場の花巻東(岩手)も、予定していた練習試合の多くが見直しを余儀なくされた。そこで7日、例年全国高校野球選手権岩手大会の決勝会場となる盛岡市の岩手県営球場を借り切って、初めてのOB戦を行った。

 各年代の主将経験者が、同学年の仲間たちに連絡を回し、約40人が集まった。社会人野球や地元クラブチームの選手、帰郷中の大学野球部員に交じって、いまはソフトボールをしているOBや、もう野球からは離れているOBもいた。

 岩手県高野連が予定している独自大会の前に貴重な実戦機会を設ける。それ以上の理由が、このOB戦にはあった。

 佐々木洋監督(44)が明かす。「3年間死にものぐるいでやってきたのに甲子園がなくなり、虚無感が体に染みつかないか心配だった。もう一度、道しるべを見せないといけない。新しい目標を自分で考えるようにするためにも、いろんなOBに集まってもらいたかった」

 2005年度卒の千葉秀幸さん(32)も少年野球を指導しているが、自らがプレーからは離れて久しい。

 岩手大を卒業した後、地元の信用金庫に就職。30歳になったのを機に家業の建具店へ。昨年、周囲の声に押されて県議選に出て当選した。

 会社員、家業、そして議員と経験して、千葉さんは改めて思う。「何かのきっかけになれば、と思い参加しました。社会人やクラブチームで野球を続けるのも道ですが、いろんな道があるんだよ、次のステップがあるんだよ、と」

 佐々木監督はいま、2種類のポスターを作っている。出来上がったら、部室に貼る予定だ。1枚はOB戦の集合写真。もう1枚は部員たちの後ろ姿に、こんな言葉を添えた。「この夏を考え悲観して生きるのではなく、この先を考え勇敢に生きる」。甲子園という結果ではなく、そこを目指した過程こそが、人生を支えてくれると信じている。(山下弘展)