[PR]

 コロナ禍のなかで、将棋の対局風景も様変わりしている。マスクの着用はもはや「定跡」。ただ、長時間にわたってつけ続けると、息苦しさから集中するのが難しくなる。特に名人戦は2日間にわたって対局が続くことから、対局者はマスク選びに細やかな神経を使っている。

 6月10、11両日にあった名人戦第1局。「忍者みたい」「ナベノマスクか」と話題になったのが、挑戦者の渡辺明三冠が使った「バフ」のようなものだった。鼻と口を覆う布で、ジョギングのときなどに使う。着物と合わせると、迫力満点。まるで鞍馬天狗のような見た目になる。

 おもむろにマスクを外し、バフを巻いたときには、記者らが集まる検討室が「なんだあれは」と騒然とした。立会人を務める福崎文吾九段は目を丸くして「普通のマスクだと眼鏡が曇るからかな。息も楽なんかな」と画面を見つめていた。

 渡辺三冠は、バフにたどり着くまでの試行錯誤を明かしてくれた。不織布のマスクはどうしても息苦しさがある。そこでフェースシールドを使おうと考えた。口元を覆っていないので、水分補給がしやすい。ストローを使えば、脱着する手間も省ける。ただ、大きな難点があったという。

 自宅のぬいぐるみにフェースシールドをかぶせ、対局相手からどう見えるのか実験すると、光が反射してしまった。対局相手の気が散ってしまい、中継映像も見にくくなるのでは――。これでは使えないと、選んだのが通気性のいい「バフ」だった。「二日間で長丁場なので、苦しくならないように。暑くもなってきていますし、そういった体調面を考えて選びました」

 「忍者みたい」と呼ばれていることに「1局目はたまたま着物の色と合ったというところがあったんですが、あまり変になっちゃうとどうかなというところはあります」と笑みを浮かべた。「バフ」は18、19両日の名人戦第2局にも持参した。着物の色と合えばつかうつもりだという。「いくつか持っているので、考えます」。

 実は、豊島将之名人・竜王もマスクにこだわっている。第1局では、対局の途中にマスクを変えていた。

 最初はマスクの折り目が付いている不織布のマスクだった。だが途中から折り目のないものにつけ替えていた。

 色はおなじ白。目立つ変化ではないので、検討室でも「布のマスクにしたのかな」くらいで大きな騒ぎにはならなかった。ただ豊島名人・竜王に聞いてみると、もっと繊細にマスクを選んでいた。

 「布というか、麻のマスクをしています。何個か試したのですが、一番楽だったので」。確かに麻なら、綿などのマスクより呼吸がしやすそうだ。でも、どこで?

 豊島名人・竜王は「家の近くの、布団屋さんで。麻だと通気性がいいので」と教えてくれた。

 コロナ禍のなかでの対局、棋譜には残らない好手が続いている。(高津祐典)