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 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための移動の自粛要請が、19日から全国で解除される。札幌市と道内各地の往来の制限もなくなる。だが、北海道経済を潤してきた訪日外国人を含め、道外からの観光客の「V字回復」は見通せない。道内の観光地では「まずは地元の人に来てもらいたい」との声が広がる。

 18日午前11時、登別温泉の観光客はまばらだった。これまでなら、旅館をチェックアウトし、土産物店などで買い物を楽しむ時間帯だ。茨城県笠間市からフェリーとキャンピングカーでやってきた70代の夫婦は「人通りがなくて驚いた。公共交通機関は不安だから車にした。多くのホテルが休んでいるし、洞爺湖温泉に行こうかな」。

 国内外から年間約400万人が訪れる登別温泉。14軒ある温泉旅館のほとんどは4月下旬から休業を余儀なくされたが、19日までにすべてが営業を再開する予定だ。2008年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災、18年9月の北海道胆振東部地震――。そのたびに客足が落ち込んだが、今回は事情が異なる。

 各ホテルではフロントにアクリル板を設け、消毒液を館内の至る所に置く。客を迎え入れる準備はできているが、登別国際観光コンベンション協会の唐神昌子会長は「温泉地はゆったりくつろいでもらうところ。安全で安心だと思っていただくには時間がかかる」と話す。

 期待を寄せるのは地元や道内からの客だ。登別市は市民限定の8千円クーポン券を発行した。道も、道民に道内旅行の費用として最大1万円を補助する「どうみん割」を7月に始める。唐神会長は「一気に回復は難しいので、行政の支援も継続的にやってほしい」と訴える。

 「すぐに観光客が戻るとは考えられない。まずは近隣、そして道内から戻ってきてほしい」。NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構(釧路市)の山下晋一専務理事は話す。阿寒湖温泉では、土産物店や飲食店の多くが営業を再開したが、売り上げは前年に比べて8~9割も減る。

 目玉施設の阿寒湖アイヌシアターイコ●(●は小書き片仮名ロ)は1日、約2カ月ぶりに公演を再開した。公演回数を減らしているが、332ある客席は2~3席しか埋まらない。来場者がゼロで休演することもたびたびだ。「お客さんにはマスク着用をお願いしますが、『3密』の心配がないほどさびしい」(担当者)。阿寒湖の遊覧船も今月いっぱいは運休が続く。

 国内外から多くの観光客が訪れていた函館市もにぎわいが戻っていない。1日に運行を再開した函館山ロープウェイでは、ゴンドラ乗車人数を定員の半分以下に抑えるなど、感染防止対策を進めてきた。国内外の観光客向けの施設で、札幌からの交通の便が悪いこともあり、客足はなかなか戻らない。水口貴博・営業企画部長は「週末も乗客は平時の2割に届かない」。

 レストランでは平日に500円のランチメニューを始め、地元の人に来てもらう工夫をする。津軽海峡を挟んだ青森県のラジオ局でPR番組を流し、「安・近・短」のレジャー需要の掘り起こしにも余念がない。最近、駐車場で青森、室蘭、札幌などのナンバーをちらほら見かけるようになったという。(西川祥一、高田誠、三木一哉)

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 ツアー会社のニセコアドベンチャーセンター(NAC、倶知安町)は1日から、新緑に包まれた羊蹄山ろくの尻別川をゴムボートで下る「ラフティング」を再開した。6月中旬には、ライフジャケットにヘルメット姿の若者たちが、水しぶきを浴びながら8キロの川下りを楽しんだ。シンガポール在住で、仕事で北海道に滞在する荒屋秀埜(しゅうや)さん(26)は「久しぶりに屋外で思いっきり楽しんだ。水は冷たかったが、コロナのストレスを発散できた」と笑顔だった。

 感染リスクが高い「3密」とは無縁の屋外レジャーも苦戦を強いられている。例年は雪解け水で川が増水する4月からラフティングのシーズンが始まるが、今年は新型コロナウイルスの影響で5月末まで営業を自粛していた。道内外の小中高の修学旅行生約4千人分がすべてキャンセルとなり、売り上げは前年の1割に届かないという。

 NAC広報の岩崎敬さん(47)は「感染の『第3波』に見舞われたら会社は瀬戸際に立たされる」と心配する。(佐久間泰雄)

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 観光業の失速は北海道経済に大きな影を落とす。

 道庁が2014年10月~15年9月に実施した調査では、道内の観光消費額は1兆4298億円。道内総生産(名目GDP)に占める割合は7・6%と全国平均を3ポイント近く上回る。食品や物流といった周辺産業への波及効果は2兆897億円にのぼり、道内の就業者の8%にあたる約19万人の雇用を生んでいるとされる。北海道で観光が基幹産業と言われるゆえんだ。

 そんな観光業界の「お得意様」だったのが、訪日外国人観光客だ。道の調査では、1回の旅行あたりの消費額は17・8万円で、道外の国内客(7・3万円)、日帰りが多い道内客(1・2万円)を大きく引き離す。訪日客は当時(14年度)の154万人から18年度に312万人に増え、ますます存在感を増していたが、今年4月と5月の新千歳空港の入国者はゼロだ。

 ただ、道内を巡る観光客5520万人(18年度)のうち、実は4601万人は道民が占める。607万人の国内客とともに、道民の旅行需要の掘り起こしが当面の課題だ。北海道観光振興機構の堰八義博会長は、「インバウンド(訪日客)の回復は年単位の時間がかかる。まずは道民に道内を旅行してもらうことが重要だ」と話す。(長崎潤一郎)