野球ノートで向き合った自分、つないだ絆

高岡佐也子
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 新型コロナウイルスの影響で訪れた、いつもと違う高校野球の春。グラウンドでの練習ができなくても、変わらず野球ノートを書き続けた部員たちがいる。自分と、仲間と、じっくり向き合った時間を胸に、最後の夏へ向かう。

 昨年春夏連続で甲子園に出場した米子東(鳥取)。選手たちは休校中も、毎日その日の行動を振り返り、目標を確認する内容の野球ノートにペンを走らせた。自分と向き合い、それぞれ「答え」を見つけた。

 甲子園出場時、2年生ながら4番を担った内野手の岡本大翔(ひろと)(3年)は、プロ志望だ。今年も甲子園に出てスカウトにアピールしよう。そう思い描いていた最後の高校生活はまったく違うものになったが、目標はぶれなかった。

 日々のトレーニング内容を細かに記録し続けた。「いつ、何が起こるかわからない。今できることは今のうちにしよう」との思いを強め、5月、プロ志望届の提出を決断した。夏の全国選手権大会中止が決まった2日後、ノートに書いた。「たくさんの人が悲しいと思う。できることは、一緒になって下を向くことではない。頭と気持ちを整理して前を向くこと」

 心が揺らいだ選手もいた。一塁手の遠藤想大(そうだい)(同)の志望校は、東大医学部。夏の大会中止が決まった5月20日、ノートに「目標を失って、練習に取りかかってもむなしさがある」と正直な胸の内をつづった。

 両立か、引退か。悩みながら、昨夏の甲子園出場を決めた時のページを開いた。「これだけの方々に応援してもらえることは幸せ」と、周囲の支えに対する感謝が記してあった。

 下した決断は「両立」。野球をする意味を考え抜き、「野球部の自分を応援してくれた人には、やっぱり野球で恩返ししよう」と思い至った。「甲子園じゃなくても恩返しはできる。考えを書いて頭を整理し、勉強の時間を割いてでも打ち込む価値があると思いました」

 ノートで仲間との絆をつないだ野球部もある。四條畷(大阪)は、一冊のノートを交換日記のように回す。部活動の休止期間に入った2月29日から、部員たちはノートをスマホで写真に撮り、共有した。

 「成長した姿でグラウンドに集まろう」「日々、勝負しよう」。3カ月間、ルーズリーフ1枚にびっしりつづられた仲間の言葉は、途切れることなくスマホに届いた。

 休校中、監督や部長が整備してくれていたグラウンドに、選手たちの姿が戻ったのは6月15日。主将の尾崎恒平(3年)は「全員が意識を共有して自主練習に取り組めたおかげで、著しく状態が落ちた選手がいなかった。仲間の練習内容を見て、僕も刺激をもらった」と振り返った。

 結束を深めたのは、マネジャーも同じ。鈴置結希奈(3年)は「この日誌があることで自分のアピールができる」。山下夏奈(同)も「自主練で頑張ったからここまで強くなれたと言えるように」などと書き、選手を鼓舞した。

 2人は2年生マネジャー1人とともに、選手32人と監督、部長に渡すお守りと、「活気」の文字が浮かぶ千羽鶴を作った。千羽鶴に使った「折り鶴」は5200羽。鈴置と山下は「みんなが頑張っているから私も、と思いながら作った」と声をそろえた。高岡佐也子

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