鳥取)新型コロナ、高まる地方移住への機運

新型コロナウイルス

矢田文
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 新型コロナウイルスの感染拡大は都市という密空間のリスクを浮き彫りにした。そうした中、都市部(密)から地方(疎)に新たな価値を見いだす機運が生まれている。ウイルスとの共存が求められる時代に地方創生に光は差すか。人口最少の鳥取から考える。

 鳥取市街地から車で30分ほどの旧鹿野町地区。東京の企業をパートナーに新規事業開発の支援などをしているフリーランスの吉井秀三さん(42)は「ネットがあれば、鳥取にいながらでも東京と接点を保つことは意外とできる」と話す。

 吉井さんは3年前に妻と長男(3)と一緒に東京から人口4千人に満たないこの町へ移住した。関東の大学卒業後、都内のIT企業に長く勤めてきたが、青森への長期出張や体調を崩して自身の暮らし方を見つめ直したことを機に「生活のベースにするなら密より疎」と考えるようになり、移住を決めた。

 通勤時間30秒。午前9時に自宅2階に設けた「オフィス」に出社する。クライアントの多くが首都圏在住でやりとりはほとんどすべてオンライン上だ。午前中にはウェブ会議システム「Zoom」を使ったミーティングと企画書の作成。昼食は同じく在宅で働く妻と手作りで済まし、午後には企業向けにオンラインでセミナーを開催。その後もZoomで商談をこなした。

 移住後の最大の変化は家族との時間が増えたことだ。かつて満員電車に揺られた時間も、保育園に行くまでの長男と過ごす大切な時間になった。夕食後にも商談を入れたり、移動時間がなくなったりしたことで、仕事量はまったく減っていないという。

 「これから自分のような働き方に目を向ける人は増えると思う」と吉井さん。最近ではリモートを理由に仕事を断られることはなくなった。「むしろ今は、オフラインの方が理由を求められるようになっている」と、地方×リモートワークのハードルが下がっていることを強く感じている。

 倉吉市の音楽プロデューサー井谷優太さん(35)は東京との2拠点で活動を続けてきた。生まれつきに手足に障害がある井谷さんは、リアルな楽器を使ったスタジオ収録ではなく、自宅でパソコンの作曲ソフトを使った音楽の制作が中心だ。

 パソコンでの音楽制作はこれまで主流な分野ではなかったというが、コロナ禍でスタジオ利用などが制限されたことからユーザーが増加。井谷さんは2016年に楽曲を披露する場を求めて東京に進出したが、今は音楽の販売サイトなども増え、「ユーザーが増えれば可能性も広がる。以前ほど東京にこだわらなくても良いのかもしれない」。

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 就職情報会社「学情」が緊急事態宣言中の4月24日~5月1日に20代の転職希望者を対象に実施した調査によると、「地方への転職を希望する」と答えた人は36%と、国内でウイルスの感染拡大が起きる前に実施した2月の調査と比べ約14ポイント増加した。

 地方転職の希望理由としては、「テレワークで場所を選ばずに仕事ができることが分かった」「都市部で働くことにリスクを感じた」などが目立ち、現実として新型コロナウイルスは働き方への価値観の変化をもたらしている。

 ふるさと鳥取県定住機構では、6月からウェブ上で移住相談会を再開した。際だった動きはまだないというが、地方創生への追い風を期待する。(矢田文)

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 こうした密から疎へ向かう動きを、「都市化」との対義語として「開疎化」という新たな言葉で提唱する慶応大の安宅和人教授に話を聞いた。

 人類が十分な集団免疫を獲得するまで、ウイルスと共存する「ウィズコロナ」社会が数年は続く。この数百年人類が進めてきたひたすら人口が都市に向かう流れとは逆向きのトレンドが起きつつある。

 実際、リモート化によりオフィスや役所などこれまで密・密閉空間だったモノの開疎(開放×疎)化は進み始めている。当面は人よりモノが動く時代に向かうだろう。人の開疎化が起きるとすれば、この後になる。地方移住が極端に増えるとは考えにくいが少なからず増える。

 ただ、単純に田舎の時代が来ると捉えるのは間違いだ。地方はこれまで都市ソリューションを田舎にも持つことを目指してきた。いわばミニ東京を形成しようとしてきた。だが、結果として都市一極集中という形になっているように、日本の田舎は成功していない。

 まったく違うベクトルで都市部に抵抗し得る価値・魅力を創造する必要がある。これは、野放しになった野生ではなく、自然と共存し気付きを促す景観、文化を生み出し得る豊かに暮らせる空間などだ。

 今回のコロナにより都市部と地方の価値観が揺らぎ始めているのは事実だ。今こそ地方のあり方が問われている。このチャンスをつかめるかどうかで、一流の地方と二流の地方、未来への分かれ道になるだろう。

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