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 5月、島根県益田市を車で回ると、小さな谷間に1軒の家があり、ご夫婦が黙々と農作業をされていました。一木一草まで手入れされた「小宇宙」です。変わらず田を耕し、田植えする姿が例年になく力強く美しく見え、涙が出ました。こういう風景が中国山地のそこかしこにあり、コロナ禍があっても揺るぎません。

 コロナ禍で「大規模・集中・グローバル」の限界が噴出しました。ただ、コロナがなくてもすでに出ていました。ここ10年、変に肥大化した経済に社会も自然も押しつぶされるとすごく感じていました。1970年代、「成長の限界」が語られ、公害もひどくなった。国の第三次全国総合開発計画(三全総)は、成長志向ではなく循環志向でした。流域圏をつくっていこうとか。そっちにいけばよかったのに、80年代にバブルに走りました。バブル崩壊で反省すればよかったのに、夢をもう一度みたいに「大規模・集中・グローバル」に走ってしまった。2000年代、「選択と集中」を進め、共生でなく競争だと新自由主義でやった。そして、アベノミクスは、ある意味見せかけの経済成長モデルです。格差が拡大し、地球温暖化も始まり、いずれ破局に向かうことは見えていました。

 「大規模・集中・グローバル」ではなく、めざすべきは「小規模・分散・ローカル」です。リーマン・ショック(2008年)や東日本大震災(11年)の後、若者が地方に目を向け始めました。私は、人口の1%分の定住者を毎年増やせば人口減に歯止めをかけられるという「田園回帰1%戦略」を提唱しています。岡山県の西粟倉村や新庄村、島根県の知夫村や邑南町、広島県北広島町、山口県阿武町など、中国地方のあちこちの自治体が社会増加率で全国上位に入り、東北より目立ちます。「大規模・集中・グローバル」に期待せず、自らの生態系を創り始めた自治体に人が来ています。今回、敏感な人ほど東京はやばいと思っています。コロナ禍でこの田園回帰に拍車がかからないと、東京は高齢化でつぶれます。

 ただ、コロナ対策を「東京右ならえ」でやっているのは問題です。感染者は一切来るな、ではなくて、安全を確保しながら田園回帰のチャンネルづくりをしないと、「社会的壊死(えし)」しかねません。

 このままでは大量失業が発生します。循環型社会の礎となるよう、農地や森林、海岸の手入れ、バイオマスなど再生可能エネルギーの導入、新しい交通網づくりなどに金と人を投資すべきです。学校の空き校舎や空き家、ホテルとか借り上げて待機場所にすることができます。

 私が提言しているのは日本版の「民間国土保全隊(グリーンレンジャー)」です。大恐慌時の1930年代、アメリカのルーズベルト大統領が2650カ所にキャンプをつくり、最大50万人の若者に植林や公園整備など国土保全をさせました。単なる失業手当でなく、スキルを身につけながら住民に励まされながら、希望を分かち合えたという意味でニューディールの中でもすごく評価が高い政策です。地域おこし協力隊との連携もありでしょう。実は10年前に国土審議会で提案しました。いまほど、必要な時はありません。

 地球温暖化はぴんときていなかったが、自分たちに降りかかる形で来たコロナ禍は、みんなが今のままではだめだと気づいた点で大きい。ある意味、ラストチャンスかもしれません。(構成・小西孝司)

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 ふじやま・こう 1959年、島根県益田市生まれ。一橋大経済学部を卒業後、広島県の高校教諭などを経て、98年、島根県の中山間地域研究センター(飯南町)の研究員に。退職した2017年、益田市に一般社団法人「持続可能な地域社会総合研究所」を開設。北海学園大(札幌市)客員教授や総務省の地域力創造アドバイザーも務める。著書に『田園回帰1%戦略』(農文協)、『「小さな拠点」をつくる』(同)ほか。