拡大する写真・図版練習拠点の王山運動場で練習する右からマイケル、アブラハム、ルシアの各選手

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 2011年にスーダンから分離し、世界で最も新しい独立国となった南スーダン。東京五輪・パラリンピック出場予定の陸上選手4人とコーチが、前橋市で事前の合宿をしている。新型コロナウイルスの感染拡大、東京大会の延期と異国での困難が続くが、市民と交流し、支援を受けながら練習に励んでいる。

 滞在するのは五輪出場予定のアブラハム選手(21、1500M)、アクーン選手(18、400M、400Mハードル)ルシア選手(19、100M、200M)、パラリンピック出場予定のマイケル選手(29、100、200M)と、ジョセフコーチ(59)の5人。

拡大する写真・図版緊急事態宣言が出され、練習拠点の運動場が閉鎖されると、選手たちは河川敷の広場で自主練習を続けた。夕食を食べに行く定食屋を営む宮永成美さんの娘・結乃(ゆの)さん(6・右)、乃彩(のあ)ちゃん(5)が遊びに来ると、マイケル選手に笑みがこぼれた

 独立後も内戦が続き、満足に練習できない選手たちを、国際協力機構(JICA)の紹介で昨年11月、市が受け入れた。費用はクラウドファンディング型のふるさと納税で集まった1900万円をあてている。

拡大する写真・図版新型コロナウイルスの感染拡大の影響で4月の予定から延期になっていた記録測定が6月6日に行われ、スタート直前に集中するマイケル選手

 パラリンピック出場予定のマイケル選手(29)は生まれつき右手に障害がある。22歳の時に開かれた学生競技会に出場。健常者とも競い合える才能に気付いたことが陸上を始めるきっかけだ。16年のリオ大会を市場のテレビで見て、東京大会出場を心に決めた。

 ただ、母国では国の支援も無く、障害で仕事にも就けない。食事を全くとれない日も珍しくないほど貧しい暮らしで、「そもそも練習すらできなかった」という。

 だが、日本では「練習施設も生活環境も市や市民がサポートしてくれて完璧」と不安なくトレーニングできている。

拡大する写真・図版週に一度スーパーに行き、朝食や休日の食事の材料を買い出しをする。「がんばってください」と声をかける市民もいた

 大会の延期については「トレーニングできる時間が増えてポジティブに考えている。国を代表し、前橋で支えてくれた人の期待に応え、自分の才能を証明したい」と意気込む。「活躍すれば国やその状況を世界中の人に知ってもらえ、平穏な国づくりの助けになる」と信じている。

 受け入れ事業を担当するスポーツ課長の桑原和彦さんは「話や生活態度から、彼らが重い物を背負っているのが分かる。前橋に来て色々大変なことも多かったが、言葉も通じない環境で少しでも心地よくトレーニングできる環境を作りたい。市民にとっても彼らを通じて南スーダンを知り、平和を考える良い機会になっていると思う」と話す。

拡大する写真・図版午前8時半から始まる日本語の授業であくびをするマイケル選手

 5人のビザの期限は11月までで、7月までの滞在は決まっている。全員がこのまま日本で合宿を続けることを希望しているが、いったん帰国するのか、市は南スーダン五輪委員会の意向やビザ延長の可否を考慮して、今後の予定を決めるという。(写真・文 福留庸友

拡大する写真・図版語学学校の壁には5人が書き初めで書いた漢字が張り出されていた