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 ベビーシッターと利用者をアプリでつなぐ大手仲介サイト「キッズライン」の男性シッター2人による強制わいせつ事件が明らかになりました(https://www.asahi.com/articles/DA3S14515414.html )。東京都の育児支援事業の助成対象であるサービス会社で、シッターと子どもを預けたい保護者をつなぐ仕組みを悪用したものです。2019年11月に男児の下半身を触ったとして2020年4月に橋本晃典容疑者が逮捕、5月に女児の下半身を触ったとして荒井健容疑者が6月に逮捕されました。被害にあったお子さんとご家族を思うととても苦しくなります。

 子どもは自分に起きたことがどういう意図を持ってなされたことなのか理解することが難しく、言葉にするには幼かったり、加害者に他言しないように強く言われたりしている可能性もあります。橋本容疑者は複数の男児の動画を持っていたとも報じられていますから、余罪をぜひ調査してほしいです。

 キッズラインはホームページのお知らせで、容疑者の名前や具体的な容疑内容を書いていません。利用者、登録者への直接のお知らせも不十分なようです。経沢香保子代表の会見などもいまだないため、利用してきた人たちはどんなに不安かと思います。会社としての対応には、問題があると私は思っています。

男性シッターを締め出せばいいのか

 1人目の逮捕者が出た時点で、そのシッターが受け持った子どもの家庭すべてにキッズラインが連絡をするべきではなかったでしょうか。ホームページを見る限り、そうした形跡は確認できませんでした。4月に橋本容疑者が逮捕された際、何らかの対策を取っていれば、5月の荒井容疑者による事件は防げたはずではないかと思わないではいられません。6月4日にようやくキッズラインが行った施策は、すべての男性シッターによるサポートを停止することでした。事件前まで、キッズラインのホームページを見ると男性シッターがいかに女性シッターにない特色があってお勧めかという説明が多くありましたが、今回の措置は、名前の明らかになっていない「専門家」が性犯罪は男性により発生する傾向が高いと指摘したことからの措置のようです。

 すでに多くの人が言っているように、これは根本的な解決策になっていません。「女性は出産によって休職・退職する可能性が高いから」という理由で雇用しないのが違法なように、男性だからといって一律サポート停止は問題ですし、今まで同社が広報してきた内容と整合性がなさすぎるのではないでしょうか。

 キッズラインは内閣府と東京都による助成対象になっています。一企業が、託児事業の性犯罪の根本的な防止・解決をすることはできないでしょう。助成金を出している行政側が、調査や基準を作るべきなのではないでしょうか。アエラドットによると、東京都の福祉保健局担当者は、上田令子都議が出した認定基準の見直しを求める請願に対して、マッチング事業に対して助成しているのではなく、シッター事業に対してなので、認定を取り消すつもりはないと回答しています(https://dot.asahi.com/dot/2020062000003.html?page=1別ウインドウで開きます)。

 確かにキッズラインは保護者とサポーターと呼ばれるシッターをマッチングさせていますが、おかしな理屈です。マッチングさせずにどう双方の利用者同士を引き合わせるというのでしょう。リストから順にあたるなどしたら効率が悪すぎて現実的ではありません。

保育の質 保つには

 また、同社はホームページのトップで内閣府と東京都が認定していて割引が受けられることを宣伝しています。利用したい人にとっては、そういった行政のお墨付きがあるという印象を持ってもおかしくありません。だいたい、医学的根拠のあいまいな骨盤ベルトやサプリメントも「○○有名病院産婦人科にも置いてあります」などと宣伝するものです。助成する際の基準に保育の質の担保があってしかるべきではないでしょうか。

 また、性犯罪者が子どもに近づくことができないような仕組みも大事です。日本にはそういった制度がなく、子どもに関わる事業を行う企業や組織がデータベースを照会することができません。保育士や教員、学童の職員、塾の職員などはなんらかのチェックができないといけないのではないでしょうか。先日やっと性犯罪者にGPS装着義務化を検討するという方針が発表されました(https://www.asahi.com/articles/ASN6C6J0GN6CUTFK017.html )。技術的にそれほど難しい点はなく、海外ではチェックシステムもGPSも導入されている国は多くあります。子どもと保護者が安心して暮らせるようになることを願います。

森戸やすみ

森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はどうかん山こどもクリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。