旧陸海軍の墓地、どう保存 進む劣化・損傷、でも国は…
太平洋戦争中に完成し、約3千人の戦死者が眠る大阪府和泉市の「信太山(しのだやま)忠霊塔」(旧信太山陸軍墓地)について、所有する国が「耐震性に深刻な問題がある」として、地元と対応策の協議を始めたことがわかった。撤去される可能性もあるとして、遺族会などが懸念の声を上げている。戦後75年。戦争を伝える遺構の保存が各地で課題となっている。
忠霊塔は、旧陸軍の施設だった陸上自衛隊信太山駐屯地に隣接する黒鳥山公園に立つ。開戦約5カ月後の1942年4月に完成。高さ13メートル、幅2メートル、奥行き2・5メートルの塔に花崗岩(かこうがん)張りの納骨堂を備える。日中、太平洋戦争などで死亡した軍人、軍属らの約1560人の骨壺と1400を超える位牌(いはい)が納められている。
戦後、大蔵省(現財務省)近畿財務局に移管され、和泉市に無償で貸与された。同局によると昨年、耐震診断調査をした結果、保存状態は良好だったものの、コンクリートに鉄筋が入っておらず強度が不足し、地震で損傷が起きる恐れがあることが判明したという。和泉市によると、国は「補強をすれば安全に保持できる可能性がある」と説明していたが、今春になって「地盤にも深刻な問題があり、補強も困難」との見解を伝えてきたという。
方針を受け、忠霊塔の清掃活動や祭祀(さいし)を続けてきた和泉市遺族会は、安全への懸念から、8月の「御霊祭(みたままつり)」などの中止を決めた。
平和考える重要な手がかり
軍用墓地に詳しい大阪電気通信大名誉教授の小田康徳さんは「忠霊塔は戦争の拡大で戦死者が急増し、ひとりずつの墓碑が建てられなくなった中、合葬方式を進めた国の方針のもとで各地に建てられた。軍人の死を顕彰することで、国民を戦争に協力させた戦時体制の歴史を伝える重要な遺構。解体されれば、平和を考える重要な手がかりの一つを失う」と話す。
小田さんが理事長を務めるN…