38年前より異例?将棋会館の名人戦 ひふみんの思い出
将棋界の最高峰を争う名人戦七番勝負。ファンにとっては「春の風物詩」としておなじみだが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2カ月遅れで開幕する異例の日程となった。25、26の両日に行われる第3局の舞台は、東京都渋谷区の将棋会館。同所で名人戦が行われるのは38年ぶりだ。
豊島将之名人(30)=竜王とあわせ二冠=に渡辺明三冠(36)が挑戦する第78期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)。第3局を控えた両者は24日、宿泊先のホテルで取材に応じた。
将棋会館での名人戦となることについて、豊島名人は「タイトル戦を戦うのは初めてだが、いつも指している場所なので問題なく指せると思う」と話した。渡辺三冠は「将棋会館でタイトル戦をやったことはあるが、2日制は初めて。慣れない部分が出てくるかもしれない」と慎重な姿勢を見せた。
将棋会館は東京と大阪にあり、東京の会館は新国立競技場にほど近い渋谷区千駄ケ谷の住宅街にある。普段の公式戦は両会館で行われるが、棋士にとっての晴れ舞台であるタイトル戦は格式の高いホテルや旅館などで指されるのが通例だ。
前回、東京の会館で名人戦が指されたのは1982年。中原誠十六世名人(72)に加藤一二三九段(80)が挑戦した第40期名人戦だ。この年は第1局が持将棋(引き分け)、第6局と第8局がそれぞれ千日手指し直しとなって、10局目となる「第8局指し直し局」までもつれ込み、他の対局場の都合がつかなかった。
3勝3敗で迎えたこの一戦は、終盤で即詰みを発見した加藤九段が劇的な勝利で念願の名人獲得を果たした。「ひふみん」の愛称で知られる加藤九段は敬虔(けいけん)なクリスチャンでもある。「対局の前の日は将棋会館に泊まり、朝は四谷の教会で行われるミサに足を運んだ。その環境が良かった」と回想する。
名人戦は例年、6月末までに決着するが、この年の第8局指し直し局が行われたのは7月30、31日だった。今年は8月7、8日にある第5局の開催が既に決定している。38年前よりさらに異例と言える「真夏の名人戦」となる。(村瀬信也)
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