「引退してもいいんだぞ」 監督の声に3年生は 相模原
神奈川県の県立高校が29日、部活動を再開した。昨夏の第101回全国高校野球選手権神奈川大会で4強入りを果たした県立相模原も、たった1時間ながら、バットが球をとらえる感触を確かめるように打撃練習をこなした。
「あいつらの足と尻、大きくなってないか?」。29日、授業を終え、白い練習用ユニホームでグラウンドへ集まってくる部員たちを見て佐相真澄監督は驚いた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて2月末に部活動が休止になってから、実際に顔を合わせるのはおよそ4カ月ぶりだ。
相模原は県内屈指の進学校でありながら、野球の強豪私学がひしめく神奈川で毎年存在感を発揮している。特に昨夏の神奈川大会は、準々決勝で横浜を撃破して4強へ進出した。「打力に関しては昨年のチームと同じくらい。冬、20試合紅白戦をしてかなりよかったのに、コロナにやられてしまいました」。甲子園への道がついえ、佐相監督は少し無念そうに話す。
第102回全国高校野球選手権の中止が発表されたのは5月20日。約3週間後の6月12日、神奈川県高野連による独自大会の開催が決まり、オンラインでミーティングを開いた。佐相監督は3年生に提案した。「勉強に移る子は移っていい。引退してもいいんだぞ」。本気で甲子園を目指していた以上、独自大会では3年生の士気を保つのが難しい。ならば、もう一つの目標である受験に向けて本格的にスタートしたほうがいいのでは、と考えた。
しかし、浜口優太郎主将(3年)は間髪入れずに答えた。「全員で(独自大会を)乗り切る、と確認できています」。5月20日に全国高校野球選手権大会が中止になってから、3年生だけでオンラインミーティングを重ねてきていた。
浜口主将は振り返る。「中止発表のときは落ち込みました。切り替えようと思っても、切り替えられない。週に1回ぐらい、みんなで話し合って、徐々に気持ちを変えていった。『甲子園で1勝』という目標は果たせないけど、やりきろう、と」
毎年5月末から6月上旬にかけて、相模原には恒例の練習がある。全力の300メートル走を1日20本。それを2週間続けるのだ。部活休止中も、部員たちは近くに住むもの同士が声をかけあって、全員が自主的にこの練習に取り組んできた。
独自大会に向け、佐相監督はある決断をした。「ベンチ入りメンバーは3年に決めさせます。休止期間中、部員たちがお互いに練習内容を報告しあっていたから、誰が努力していたか、私より知っている」
たくましさを増した3年生を中心に、高く険しい神奈川の山を登り切る。(山下弘展)
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