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 神奈川県大井町の山あいにある立花学園高野球部の「希望寮」。午後6時前になると、練習を終えた部員たち25人が次々に食堂に入ってきた。

 汗ばみ泥がついた練習着のままだが、そこは寮の気安さだ。茶わんに山盛りのごはんを盛る野球部員に、細川光博さん(62)が笑顔で話しかける。

 「練習試合どうだった」

 「勝ちました!」

 光博さんは、妻の勝代さん(61)と2人で手際よく食卓を用意する。この日は豚肉のショウガ焼きに季節の天ぷら、さけの西京焼きなどがずらりと並んだ。

 どれも大盛りに見えたが「コロナ前に比べて種類はそのまま、量は減らしています。急にいっぱい食べると体に良くないので」と光博さんは言った。

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 光博さんは約45年間、警察の食堂やホテルの厨房(ちゅうぼう)で働いてきた根っからの料理人。約3年前から、2人でこの寮で働き始めた。自分の息子より一回り以上も下の高校生たちとの毎日。「心地良いよね。たくさんの孫ができたみたい」と笑う。

 毎朝午前4時に起床し、朝食の準備をする。午前6時前、寝ぼけた寮生が食堂に入ると「コラ」「早く手を洗ってこい」と光博さんが笑顔で気合を入れるのが恒例だ。

 選手の体調管理にも目配りする。顔色が悪い部員がいたらおかゆも用意する。

 志賀正啓監督(33)は「僕たちには言い出しづらいこともよく見てくれている。細川さんが来てから、チームの調子も良いんですよ」。昨秋の県大会で8強入りするなど近年は躍進が続く。細川さん夫妻の力は大きいと志賀監督は言う。

 光博さんのカレンダーには、寮生一人ひとりの誕生日が記されている。ケーキを用意し、サプライズプレゼントの小芝居もうってくれる。渡辺望光(のぞみ)副主将(3年)は「練習試合も毎回見に来てくれている。守備でも力が入ります」と話す。

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 コロナ禍の影響で、2月下旬に寮生たちが自宅に帰った。寮に残ったのは細川さん夫妻だけ。夜になっても鳴り響いていた打球音も聞こえなくなった。

 寮生たちが帰ってきたのは6月1日。久々の寮での夕食に用意したのは、豚肉のショウガ焼きがかかった巨大なトンカツ。「髪伸びたね」「ちょっと太ったんじゃない」。寮に元気な声が戻った。普段はあまり食べない部員も見事に平らげた。

 無観客での開催となる独自大会。普段は毎試合球場に駆けつける細川さん夫妻も、今回は寮で部員たちの帰りを待つつもりだ。

 桑田皐輝(こうき)寮長(同)は「見に来てもらえない分、勝ち続けることで恩返しがしたい」と意気込む。光博さんは「2人でおいしいものを準備して、楽しみに待っています」と言った。(岩本修弥)