避難=避難所に限らず コロナ流行下での災害への備え方

新型コロナウイルス九州豪雨

栗田優美
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 熊本や鹿児島で集中豪雨による大きな被害が出た。時に局地的な大雨をもたらす梅雨、そしてこれから台風シーズンにも入っていくが、新型コロナウイルスの流行が続く間は、災害で避難するときの考え方も少し変える必要がありそうだ。具体的にどう備え、避難の判断をすればよいか、専門家に聞いた。

コロナ流行中は「自宅が危険かどうか」

 「コロナへの感染を恐れるあまり、危険な自宅から避難しないことはあってはなりません。ただ『避難=避難所へ行くこと』ではないことを知ってほしい」。東京大学総合防災情報研究センターの片田敏孝・特任教授(災害社会工学)はこう話す。

 水害の場合、場所ごとの危険性はある程度事前にわかる。今回は短時間で被害が起きたが、台風など雨量が増える時間帯が予測できる場合は、避難のための時間的猶予があることも多い。

 これまでは、自宅が危険かどうかにかかわらず「何となく心配だから」と避難所に行く人もいたが、新型コロナによって人が集まる所では感染のリスクを考えなければならなくなった。コロナの流行中は「自宅が危険かどうか」で判断すべきだと片田さんは言う。

 片田さんが会長を務める日本災害情報学会は5月、コロナが流行する中での災害時の避難について、提言を出した。

 ▽まずはハザードマップや防災マップで自宅の安全性を確かめ、家にとどまるのか、外へ避難するのかを検討する

 ▽自宅外への避難が必要な場合、親戚・知人宅やホテルも選択肢にする

 ▽最終手段として、避難所へ行くことをためらわないで

写真・図版

災害が起きる前にハザードマップを確認

 ――といった内容だ。

 ハザードマップは、法律に基づき、市区町村が災害の種類別に作る被害予測地図。例えば洪水のマップは、どの場所が最大でどれぐらいの高さまで浸水するかを色分けして示している。実際の災害の被害と、ハザードマップの想定がほぼ同じだった例も多く、場所ごとの危険性を事前につかむことができる。

 ところが、水害への備えについて約千人に尋ねた損害保険ジャパン日本興亜(現・損害保険ジャパン)の昨年6月の調査では「ハザードマップを確認して、自宅付近の水害リスクを確認している」と答えた人は37・3%にとどまっている。

 マップは各自治体が配布・掲示しているほか、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp/別ウインドウで開きます)で住所を入れると確認できる。

 片田さんは「避難勧告や指示は地域全体を対象に出されるもので、個々に取るべき行動は自分で考えて判断するしかない。行政が避難のタイミングを教えてくれる、避難所へ行けば世話をしてくれる、と人任せにせず、主体的に命を守ってほしい」と求める。

避難先に何でもそろっているわけではない

 「突然、あなたの家に『避難させて』と来られたら、相手が知り合いでも正直なところ戸惑いませんか。避難所へ行くことだけが避難ではないとはいえ、無防備によその家に避難しないでください」

 6月中旬、ウェブ上で開いた防災セミナーで、講師の辻直美さんはこう話した。看護師として国内外の災害現場で活動し、防災の心構えを伝えている。この日は「コロナの今、地震や水害が起きたらどうするのか」というテーマで、必要な備えを解説した。

 辻さんの話のポイントをまとめると――

 《知人や親類宅への避難》

 必ず、事前に話し合い、合意しておくことが重要。避難させてもらう場合には、水や食べ物、マスクなど衛生用品をすべて持参し、あくまで「場所を貸してもらう」という考え方で。相手の家にもさまざまな事情がある。トラブルを避けるため「できれば協定を結んでおくくらいの準備」が必要だ。

 《避難所への避難》

 ほかの家に行く場合と同じで、水や食料、タオル、衣類、マスクや消毒液、ウェットティッシュなどを持参する。避難所に何もかもそろっているわけではない。非常用持ち出し袋は、賞味期限切れや入れてある物の使い方を知っておく。実際に背負って歩いてみる。

 《在宅避難》

 避難所の「密」を避けるため、家が安全なら自宅内にとどまり、万一の浸水や土砂災害に備えて上の階へ。しかし、家にとどまり続けるためには、十分な水や食料、簡易トイレ(辻さんのおすすめは、45リットルごみ袋と、ペットシーツ、新聞紙を使う方法)、明かりなどが要る。家具の転倒を防ぐ、物が落ちないようにするなど、災害に強い家にしておく必要もある。

 《備蓄》

 これまで備えは「3日分」「1週間分」などと言われることが多かったが「最低10日間」の備えを勧める。乾パンなど特別な防災食を買う必要はない。いつも食べている物を多くストックしておくのでよい。冷蔵庫、冷凍庫の中身やお菓子なども全部備蓄と思えば、家の中には意外と食べる物がある。

災害時を想像し、平時に「練習」を

 辻さんが強調するのは、どんな災害時でも「死なない、けがをしない」ための行動を「練習」しておくことだ。

 1日3リットルの水で生活できるか。市販の災害用トイレで用を足せるか。非常用持ち出し袋の中には何が入っていて、背負って動ける重さか。災害発生後3日間の時間の経過を想像し、自治体の公助や救援物資に頼らず、自分が用意した物で生き延びられるようにシミュレーションしてみる。

 備蓄をしていても、中を見たことがない、実際に使ったことがないために、いざ災害が起きた時に使えない、賞味期限切れで食べられなかった、というケースは多いという。

 新型コロナへの警戒は当面続きそうだ。外出しにくい今は、備えを見直すチャンスでもある、と辻さん。「備えは、『知識』と『判断』と『物』。これを使う経験が大事なのです」(栗田優美)

備蓄しておきたい物

・水 1人につき1日3リットル

・食 カセットコンロ・ボンベ、高密度のポリ袋、レトルト食品(ごはん・カレー・パスタソース)、パスタ、カップラーメン、カップスープ、米など

・停電対策 乾電池、モバイルバッテリー、ソーラーライト、ランタン

・情報 手回し充電式ラジオ(スマートフォン・携帯電話の充電器になるタイプも)、電池式ラジオ

・トイレ ペットシーツ、45リットルごみ袋、新聞紙、トイレットペーパー

・その他 持病の薬、眼鏡・コンタクトレンズ、レスキューシート(アルミ製で体温保持できる物)、使い捨てカイロ、保冷剤、塩あめ

避難時の持ち物

(水、食料など上記の物のほか)

3日分の服、レジャーシート、タオル、エア枕、箸・フォーク・スプーン、ラップ・アルミホイル、マスク、消毒液、救急セット、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、歯ブラシ、マウスウォッシュ、入れ歯・洗浄剤、生理用品(おりものシートや尿漏れパッドなど)、ロープ、布テープ、油性ペン、軍手など

※何もかもは持って行けないので、自分に必要な物を選ぶ

(辻さんへの取材から)

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