【動画】うますぎる!この卵の正体は?=神村正史撮影
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 オホーツク海に臨む北海道網走市の焼き鳥屋で、驚くほどおいしいTKG(卵かけご飯)に出合った。卵の殻を割って白飯に載せると、レモンイエローに輝く黄身が高く盛り上がる。白身は粘度が高く、黄身にくっついて離れようとしない。黄身だけ少し食べてみる。優しくさっぱりした味で、目を閉じると、大地の香りや生命の躍動までもが感じられ、心が揺さぶられる。何だこの卵は。しょうゆもタレもいらないぞ。

 コッコッコッコッ、コケコッコー。その養鶏場は網走市の郊外、オホーツク海につながる能取(のとろ)湖に面した平和地区にあった。杉村農園といい、平和地区で生産しているので「あばしりピースたまご」というそうだ。

 養鶏と言えば、小さなケージに鶏を入れて大きな施設で何万羽も飼うのが、かなり以前からの主流だが、ここは半世紀以上前の農家の庭先にタイムスリップしたよう。鶏舎は、三角トタン屋根、金網と木板で囲っただけの壁で、事実上の吹きさらし。床は地面のままだ。その上を鶏たちが自由に走り回っている。鶏舎と言うよりも鶏小屋だ。

一冊の本が決め手

 経営する杉村繁治さん(51)が養鶏を始めて今年で10年。それまではオホーツク地方の中学校で15年間、国語の教員をしていた。大阪府箕面市出身。高校生のころから自然豊かな北海道に憧れ、1年の時は列車で道内を回り、2年では自転車でも回った。北海道大学文学部に進学。卒業後は大阪に戻ったが、教員採用試験に合格し、再び北海道へ戻った。

 転機は教員生活12年目に訪れた。旭川市の書店で一冊の本を見つけた。「自然卵養鶏法」(中島正著)だ。そこでは、大量消費社会の中で合理化・機械化・工業化へと進む養鶏のあり方を疑い、ケージに鶏を入れる大規模養鶏とは対極とも言える「小羽数平飼い養鶏」が提唱されていた。

 もともと自然や生き物とともにある暮らしにとても興味があった。「教員としてはやりきった。次はこれをやろう」。そう決めた。

血が通う自然卵

 自然卵養鶏法の基本は、平飼い(地面で飼う)、開放鶏舎、小羽数、薄飼い(1坪あたり7~10羽)、自家配合などだ。この本で卵は「貴重な穀物を7分の1のカロリーに縮小して再生産されるぜいたくな食品」とされ、この養鶏法では「あえて『手間をかけて少なくとろう』ということに挑戦する」のだという。その自然卵には「農民と鶏の血が通っている」というのだ。

 杉村さんは、これらを実践する養鶏農家らでつくる全国自然養鶏会に、教員の身分で入会。養鶏場を見学して情報を集め、「600羽を飼い、200軒のお客さんを持てれば、夫婦で食べていける」との見通しを得た。

 養鶏場を開く場所を探したところ、能取湖の見えるこの土地が見つかった。美しい景色が続くことで知られた旧国鉄・湧網線(廃線)の車窓から、高校1年の時に見つめ、翌年には自転車で訪れた場所だ。

主なエサはオホーツク産

 教員を辞め、自分で鶏舎を建て始めると、「地域の人が『素人が鶏を始めるんだって? 小屋の建て方を教えてやるよ』と手伝ってくれた」。現在、6鶏舎計120坪に約600羽を飼う。1坪あたり5羽とかなりの薄飼いだが、「鶏が自由に行動できる面積を広げてあげたい」と言い、増築を続けるという。

 鶏は、赤玉を産む「ボリスブラウン」と「後藤もみじ」が中心。飼料は、網走市やその周辺で採れた小麦をメインに、北見市の米やホタテの貝殻、清里町の大豆、紋別市の魚粉、鶏舎の周りの野草など、オホーツク地方を主にほぼ北海道産。海外のものは一つもない。これらを自家配合し、裏山の土着善玉菌で発酵させた発酵飼料も混ぜている。

 鶏には最低限のワクチン以外の薬剤は投与していない。鶏舎には雄鶏もおり、卵の大半は孵卵(ふらん)器で温めればヒヨコになる有精卵だ。卵を覆っている天然の保護膜を落とさないために、汚れがひどいもの以外は洗わずに出荷するという徹底ぶりだ。

わずか2~3年の命

 6月下旬、杉村さんは空知地方で孵化(ふか)したヒヨコ約100羽を鶏舎に入れた。ヒヨコは育雛(いくすう)箱の中を走り回り、杉村さんが人さし指の先でエサ皿をつつくと、まねて皿の上の玄米をつつく。その手を親鳥だと思っているようだ。ただ、それは役目を終えた鶏を絞めた手でもある。

 鶏は孵化後5カ月ほどで卵を産…

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