拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

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 わが子の習い事をどうするか。英語にスポーツ、ピアノなど、あげればきりがありません。まわりと比べると、焦りを感じてしまう人もいるかもしれません。そんなとき、親はどうすればいいか。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

まわりには習い事をしている子が9割も…

 習い事で才能を発揮している子どもを見て、我が子にも何か習わせなければと焦ったことはありませんか。塾通いも、お受験も……中には0歳から習い事を始める親もいるようです。

 ADHDの主婦リョウさんもそんな不安を抱えています。リョウさんの娘の通う小学校のクラスでは、英語に体操教室、ピアノに水泳に塾と、習い事をしている子どもが9割を超えています。今日は、保護者同士の会話でこんなことを聞きました。「○○ちゃん、1年生なのにもう英検2級受かったんだってー!」リョウさんは焦りました。英検2級といえば高校卒業レベルです。一方、リョウさんは親子共に小学校という新しい環境に慣れるのに精いっぱいで、英会話教室に通う余裕なんてありません。

 リョウ「小学3年生からは英語の授業が始まるっていうし……焦る」

焦る気持ちの背景にあるものとは

 初めての子育てで多かれ少なかれ焦る気持ちがあるのは当然です。しかし、この手の不安の強すぎる人もいるようです。なぜ焦りが過剰に生まれてくるのでしょうか?

 焦りの背景(1) 「このままだと、~になるのではないか」という不安、恐れ

 我が子に習い事をさせるべきかについて不安で焦る親の背景として、「マイナスの結果から逃れたい」という思いがある場合があります。例えば、「受験に失敗したら、人生終わりだ。」とか「自分は受験で大変な思いをしたので、我が子には少しでも楽させたい」といった思いです。この「マイナスの結果から逃れたい」不安は、「~しなくちゃ(大変なことになる)」と悲壮なメッセージを子どもに与え、子どもまで不安にします。そして、きりがないほど長く続くのも特徴です。なぜなら、子育ての結果が出るのには長い年月がかかりますし、実のところ、子育ての結果として何を求めるのかに正解がないからです。子ども側からすれば、親がいつも不安に駆り立てられて、「~しないと、こんな恐ろしいことになる」と脅かしくる。そして、それがいつまでも続くというのは、たまらないものです。子ども自身の人生観も不安に彩られた、味気ないものになってしまうでしょう。親の人生観は、驚くほど子どもに影響します。

 焦りの背景(2) 一方で「~という結果が欲しい」というプラスの結果に向かう親も

 「いい大学に行って、素晴らしい人生を歩ませたい」「この子の才能を伸ばしたい」などがそうです。ポジティブな結果に向かう動機なので、親の側にも熱意や活気があふれているでしょう。うまくいけば、子どもも人生におけるやりがいを見つけることができて、パワフルな親子になれることでしょう。

 しかし、親からみて必要に見えることも、子ども本人にその受け入れ準備ができてなかったり、必要性を感じていなかったりするのであれば、押しつけもしくは時期尚早であるといえるでしょう。それがどんなに正しくためになることでも、です。私がカウンセラーとして働き始めた頃、なかなか自分の心の問題に向き合えずに薬物を使って現実逃避してしまう患者さんに出会いました。私は「この方には、自分の気持ちから目をそらさずに向き合うことがためになる」と思い、セラピーを進めていました。しかし患者さんは私のセラピーでだんだん落ち込んで、イライラするようになりました。その時に担当看護師さんに言われたことを今でも覚えています。「あなたが言っていることは正しいけれど、患者さんは今それができる? 患者さんが、それをしたいといった?」。そうなんです。どんなに正しいことでも、ためになることでも、相手がそれを必要だと思わなければ、そしてそれに取り組む準備ができていなければ、意味がないし、逆効果なんですね。大変反省させられた出来事でした。

 教育とは押しつけなのだろうか?

焦りを感じたら、親が自己点検を

 では、子育ても教育も、そもそも子どもに必要性を認識させて、子ども側の準備を見極めながら進めてきたのでしょうか? 教育現場では、子どもの発達段階や性格などの準備性を考慮しながら、授業のカリキュラムが組み立てられています。家庭における教育、子育てはどうでしょう? センスのよい親は、子どもの日々の様子からなんとなく子どもの今の好みや、できること、もうすぐできそうなこと、まだ無理そうなことを見極めながら、ちょうどいい課題を与えているかもしれません。しかし、我が子のことになると誰しもちょっと距離をとれなくなるもの。ついつい欲張って、「我が子ならこれぐらいできてほしい!」と高めのハードルを用意してしまいがちです。

 ハードルが高いぐらいならいいのですが、子どもの生まれつき持っている性質からはまるでかけ離れた方向性に引っ張りたくなる欲も出て来ます。結局親も教育も、子どもが生まれつき持つ素質という頑丈な根っこ、伸びたい方向やスピードを変えられないわけなのですが、やはり我が子のこととなると違いますよね。自分に似ていればなおさらです。親は、子どもたちの伸びる様をそばで見ながら、外敵から守ることもやがてできなくなります。やがて水も肥料も与えたくても与えられなくなるし、与えたとしても育たなくなる日も来ます。この辺がカウンセリングとも似ているなあと思います。親は、こうした子育ての限界をわきまえて、親は習い事に関して期待しすぎず、何かヒットすればラッキーぐらいの心構えでいくのがよいのでしょう。くれぐれも子どもを自分の果たせなかった夢を代わりに果たしてくれるような、自己実現の道具にしないことも大事です。

 長くなりましたね。まとめると、子どもの習い事で焦りを感じたら、「あ、今自分はマイナスの結果を避けようとしているのかな? それともプラスの結果をとりにいきたいのかな?」と自己点検することです。自己点検すると、結局は「子どものため」を考えながらも、自分の人生観や未解決の問題が色濃く反映されていることが多いのです。つまり、自分の問題がないか確認してから、子どもの歩み、意思に合わせて習い事を決めていくのがいいでしょう。

 コラムの筆者・中島が時間管理×人間関係をテーマに、7月31日(金)「女性のための夢を叶える時間術セミナー」をオンライン開催します。詳細はこちらから。

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中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。