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 三重県伊勢市の県立宇治山田商業高校職員室。新型コロナウイルスの影響で休止していた部活動が再開した6月1日、野球部監督の村田治樹さん(50)は机の上に、大きな封筒が置かれているのに気づいた。差出人は昨夏の野球部主将で、今春卒業した飯嶌哲平さん(19)だった。

 「後輩たちが少しでも前を向くきっかけになればと思い、手紙を出すことにしました」

 封筒の中には、飯嶌さんが直筆でつづったあいさつ文。さらに、今春卒業した部員とマネジャー計27人から、3年生の部員たちに宛てた励ましの手紙が束となって入っていた。

 「甲子園出場よりももっと価値のある何かを皆さんなら手にできるはずです」

 「今は思いっきり悔やんでください。でも最後に必ず乗り越えろ」

 「この一瞬を仲間と手を取り合い、『俺たちやりきったよな』と言えるぐらい完全燃焼してください」

 飯嶌さんが後輩たちへの手紙を、LINEのグループで呼びかけたのは5月20日。第102回全国高校野球選手権大会の中止が発表された日だった。

 「甲子園出場」という大きな目標を失ったことで、落ち込んでいる後輩たちの顔が思い浮かんだ。「3年生に一番近い先輩として、彼らの心に届く言葉を送りたい」。呼びかけから1週間で、当時の仲間27人からメッセージが集まった。

 昨夏の三重大会はベスト4。甲子園出場はかなわなかった。「後輩たちに申し訳ないという思いが残っていた。だからこそ、いま後輩たちに渡せる物は何かを考えました」。飯嶌さんはこう振り返る。

 村田さんは手紙を手に、そっと職員室を出た。廊下の隅で読み進めると、自然と涙があふれた。「下の代(3年生)の気持ちをおもんぱかって行動できる。こいつら、すごいな」

 そして、その日のうちに3年生の部員に読んでもらった。そのうちの一人、投手の中村伊吹君はこの日、部活動が再開してグラウンドに久々に立った。だが、「甲子園中止」という現実を前に、心が折れそうになった。そんな矢先に届いた先輩たちからの励ましの手紙。救われた気がした。

 「昨夏の成績をこの夏の大会で超えることが、自分たちを思ってくれた先輩たちへの恩返しになる」。中村君はそんな思いを胸に、練習の合間などに手紙を読み返し、気合を入れる。(大滝哲彰)