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 新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、埼玉県が最後まで休業要請を続けてきた「ライブハウス」と「接待を伴う飲食店」。6月17日にようやく解除されたが、この二つの業界の先行きは厳しいままだ。「人との間隔は最低1メートル」など、国が提唱する「新しい生活様式」は、達成のハードルが高く、現場は苦悩している。(長谷川陽子、釆沢嘉高)

 「はいどうぞやってください、と言われても前の状態には戻らないです」

 こう話すのは、JR浦和駅西口の雑居ビル地下1階にあるライブハウス「浦和ナルシス」(さいたま市浦和区高砂2丁目)を経営する坂井昌子社長(54)。かつて、ロックグループ「レベッカ」のボーカル、NOKKO(ノッコ)が歌っていたことでも知られる老舗ライブハウスだ。6月22日に3カ月ぶりに観客を入れたライブを再開したが、客足は思わしくない。

 感染予防策として、消毒のほか休憩中はドアを開け、扇風機を回すなどして換気。観客らには検温を行い、マスクの着用と連絡先の提出を求める。ライブ中の声援は控えてもらっている。

 日本ライブハウス協会など業界4団体が連名でまとめたガイドラインは、「新しい生活様式」をもとに、観客を従来の半分以下とすることや、観客同士の距離を最低1メートル空けるよう求めている。

 だが、坂井さんは「これを守れば採算は取れない」と言う。ライブのユーチューブ配信やミュージックビデオの制作支援といった新たな仕事を模索し、ライブハウス存続のため試行錯誤する日々だ。

 「大打撃だった」のは、大阪のライブハウスでクラスター(感染者集団)が発生したと報じられたことだった。3月半ばから出演者の公演キャンセルが相次いだ。4月2日から6月21日まで公演はゼロ。売り上げがなくても家賃や光熱費などの支払いはある。少しでも足しにするため、ネットショップを作り、過去のイベントで配ったタオルなどのグッズ販売を始めた。

 事業の譲り渡しを考えたこともあったという坂井さん。だが、長年のファンがインターネットでの資金集めを提案し、578人から約520万円が集まった。坂井さんは「たくさんの人が支えてくれて、バンドメンバーは『もう一つの実家だ』と言ってくれる。頑張らないわけにはいかないですよね」と前を向く。

     ◇

 さいたま市や越谷市内でクラスターが発生したキャバクラ店。埼玉県西部で店を経営する30代男性は「業界全部が同じではない。うちは特定の常連客が多く対策が取りやすい」と話す。先行き不透明な中で、店をどうやりくりしていくか必死だ。

 客数はコロナ前の4分の1。「可能な対策は取った。いまのお客さんを大事にして、まずは年内を乗りきることが目標」と言う。

 店内のテーブルには消毒液を置き、接待する女性は全員、フェースシールドを着用する。客のグラスをぬぐう際は使い捨て紙ナプキンを使う。それでも「人との間隔を最低1メートル」空けることまでは、採用できない。「それを守れば営業形態が崩れる。フェースシールドでも支障があるのに距離まで空けたら客が『何しに来たのか』と帰ってしまう」。悩ましい状況が続く。

 スナックや居酒屋など県内約240軒が加入する「県社交飲食業生活衛生同業組合」の西谷眞也理事長(71)は「人が人を接待する業界。感染防止対策とはいえ、マスクや飛沫(ひまつ)防止の仕切りは精神的な距離を生む。悩む店が多い」と明かす。西谷さん自身、さいたま市内でカウンターを備えたスナックを経営しており、その「距離」の影響は少なくないと考える。

 クラスターが発生したキャバクラ店は、いずれも同組合に加入していなかった。組合では「人との間隔1メートル」の内容を含む感染防止の取り組みを「安心宣言」としてまとめ、県に提出中だ。しかし「各店がどこまで守れるのか、チェックは難しい」と西谷さん。「組合としても協力する。県などが音頭を取って従業員らのPCR検査や各店の感染防止策をチェックする体制をつくってくれれば」と望んでいる。