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 前に進みたいけれど、コロナ禍で進めないもどかしさを歌にぶつけた。5日、今年で15周年を迎えた甲府市中央1丁目のライブハウス「桜座」。山梨県身延町出身のシンガー・ソングライター、岩崎けんいちさん(54)がライブを開き、感染防止で3分の1に制限された定員いっぱい、約50人のファンが聴き入った。

 色々なはじめてそれぞれの場所、STAY HOME そこから何が見える

 机の下マスクの中弱かった自分を思い出してしまう

 5月に作った「春愁。」に、多くの人に共通する戸惑いを表現した。急きょ決まったネット中継でも約20人が見つめ、岩崎さんの4カ月ぶりのステージを堪能した。

 「お客さんが少なくてもいいから、いいもんやろうよ」

 桜座支配人の龍野治徳さんが背中を押した。新型コロナウイルスの感染が広がり、岩崎さんは動画配信で音楽を届けてきた。「居場所がある」と気持ちを切り替えたが、一人で準備し、片付けるむなしさも感じていた。

 音楽、落語、映画など様々なジャンルのライブやイベントを開催してきた桜座。3月以降は予定が次々と中止になった。動画配信のためにアーティストがときどき使う程度。4月20日からは、劇場やライブハウスを含む一部業種に県が休業を要請した。

 「一日でも早く表現の場を用意したい」。龍野さんは県が求める感染防止のガイドラインを提出し、6月上旬に営業を再開した。

 現実は厳しかった。何度か開いたライブには、5人前後しか集まらなかった。一方でステージそのものは音楽の力に満ちていた。政権へのメッセージを即興で歌いあげ、トロンボーン奏者はマスクの真ん中に穴をあけて吹き鳴らし、笑いを誘った。

 龍野さんは「人が集まって、音楽を通して交流する。祭りと一緒。音楽って本来そういうものでしょ」と言う。

 自身もジャズのトロンボーン奏者。1968年に宮崎県から上京し、客のほとんどいない新宿のライブハウスで演奏した。そうした苦しかった日々も思い起こし、表現場所を求めるアーティストを支えようと心に決めた。

 ライブを終えた岩崎さんは「人がいることの安心感、幸福感を皮膚感覚で味わえた」。次のライブの予定は決まっていないが、充実感をかみしめた。

 換気のために桜座の扉は開け放たれ、歌声は外にもかすかに響いた。「やっぱ、まちに音楽があるといいもんだね」。龍野さんはつぶやいた。(市川由佳子)