記録的豪雨で冠水した熊本県球磨(くま)村の神瀬(こうのせ)地区では、消防団員らのとっさの機転で、濁流を前に動けなくなった住民40人以上が助け出された。ボートの代わりに水面に浮かべられたのは、保育園のプールだった。
雨脚が強まり、一帯が泥水につかった4日午前4時ごろ。神瀬地区の消防分団副分団長、上蔀(うわしとみ)忠成さん(46)は、住民17人を自宅の2階に避難させていた。それでも、みるみる水は2階に迫ってきた。「これだけの命を預かっとる。どげんかせんばいかん」
30メートルほど離れた高台にある保育園に、分団員の川口誠司さん(41)がいるのが見えた。「ロープ、ロープ!」。上蔀さんの叫ぶ声を聞いた川口さんは、あたりの民家にあったロープを用意。上蔀さん宅そばの車庫の屋根まで泳ぎ、保育園までロープを渡した。
「お父さん、もうこれまでの命だね」
17人の中には、生後4カ月…