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 外はもう薄暗い午後6時半。教室でノートパソコンを広げ、塔南の野球部コーチ、笠(りゅう)舞一騎(まいき)さん(26)は画面に呼びかけた。

 「みなさん、こんばんは。トレーニングを始めていこうと思います」

 画面に次々と部員が映し出される。オンライン会議システム「Zoom(ズーム)」を使った「リモート(遠隔)部活」だ。

 京都市に雨が降った7月初めのこの日、約50人の部員たちは放課後すぐに帰宅して着替え、スマートフォンを手に待ち構えていた。

 「週末に練習試合があるから、今日は下半身のメニューだけ。野球の動作を意識しながらやって。かけ声は東海で」

 笠さんの呼びかけに、主将の東海祥真君(3年)が音声をオンにして、画面上で「はい」と応じる。

 「いち、に、さん」

 東海君の声に合わせて、全員での筋力トレーニングが始まった。

 新型コロナウイルスの影響で、世間ではリモートでの会議や飲み会が浸透した。感染を気にせず、タブレットやスマホの画面越しに相手の表情を見て話せるのが利点とされる。

 体を動かしてなんぼの部活動だって、その流れに乗る価値はある。しかも、一過性の現象に終わらせるべきではない――。そう気づいたのが塔南だった。

 「雨の日も、学校が早く終わった日も、みんな一緒に練習できる。めちゃくちゃ便利。もっと早く導入したかったくらい」

 東海君はそう喜ぶ。

 というのも、部員たちには、公立校ならではの悩みがあったのだ。運動できるスペースの少なさだ。特に雨の日、室内練習ができる場所はほとんどない。ほかの部も同様だ。

 野球部員はたいてい、廊下に並んで筋トレをしてきた。動けば両脇の人とぶつかるほど狭い。同校では廊下を外履きで歩くため、衛生面の心配もあった。

 そうした問題に解消方法があると気付いたきっかけが、休校と部活動禁止の日々だった。

 まずは3月上旬から、素振りやダッシュといった自主練習を「自撮り」してもらい、その動画を通信アプリ「LINE(ライン)」で共有した。ほかにできることもないから、というのが正直な理由だった。

 ところが、慣れない作業のぎこちなさはあったが、学校でよりも広い空間でトレーニングをできていることが分かった。3カ月間近く続けるなかでメニューは増え、コミュニケーションの取り方も洗練されていった。そこで、感染が一段落して学校が再開されるのを機に、より本格的なズームを導入することにした。

 「全員の姿が生中継されて、ラインよりも一体感が生まれる。筋トレも他の人のリズムに合わせる必要があるので、1人でするより効果的だ」

 野口知紀監督(42)はそう話す。

 自宅でできる練習は限られるため、守備位置ごとにリモートで練習することで、意思疎通を深める活用法も模索中だ。

 思わぬ効果もあった。

 ふだんの部活は午後7時を過ぎることがあり、それから着替えて帰路につく。一方、リモート部活の日は、授業が終わる午後3時すぎには下校できる。部活前後の自由時間が増え、部員が勉強や自主練習に有効活用できるようになった。練習で疲れても、夕食ですぐに栄養補給もできる。

 「一人ではやらないような、きついメニューをやってきた。力強いバッティングにつながるはず」

 東海君の声には自信がこもっていた。(白見はる菜)