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 交通事故で障害が残った被害者が将来得られるはずだった収入を賠償金として保険会社から受け取る場合、実際の取り分が大きく減る一括払いではなく、取り分が減らないよう毎月受け取る形でもよいか。この点が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第一小法廷(小池裕〈ひろし〉判長)は9日、一、二審判決を支持し、被害者側の意向に沿って毎月受け取ることを認めた。一括払いを求めた保険会社側の敗訴が確定した。

 第一小法廷は「被害者が求めた場合、不利益を回復させ、損害の公平な分担を図る賠償制度の目的や理念に照らして相当であれば認められる」との初判断を示した。5人の裁判官全員一致の意見。被害者の年齢や状況によっては、受取額が大幅に増えることになる。

 被害者の損害は、将来得られたはずの収入が「逸失利益」として算定され、保険会社から受け取るのが一般的だ。これまでは一括で受け取る「一時金」が慣例だったが、将来の利息分として半分以上差し引かれるケースもあり、被害者側の不満が強かった。利息分を引かれない「定期金」での受け取りを最高裁が認めたことで被害者の選択肢が増え、年1万件を超える交通事故の裁判や保険の実務にも影響を与えそうだ。

 裁判は北海道で2007年2月に起きた事故をめぐるもの。当時4歳の男児が市道に飛び出して大型トラックにはねられ、頭部に重傷を負い、認知能力が下がり感情をうまくコントロールできない重い脳機能障害が残った。男児と両親が15年6月、保険会社の損保ジャパンなどに賠償を求めて提訴した。

 第一小法廷は、民法は賠償の受け取りを一時金に限定していないと指摘。「障害の程度や賃金水準に大きな変化があった場合、実態に即した損害額に是正することが公平だ」として、いったん決まった賠償額を後で変えられる定期金の対象になると判断し、被害者の求めに応じて定期金を選ぶことを認めた。

 札幌地裁・高裁も、「将来も安定した生活を送れるように」という両親の希望を受け、定期金での受け取りを認めていた。労働能力を完全に失った男児の逸失利益を約2億6千万円と算出。男児側の過失分を2割差し引いた上で、18~67歳の49年間にわたり毎月一定額を支払うよう損保ジャパンに命じた。一時金なら逸失利益は約6500万円に減る計算だった。

 定期金は利息分が差し引かれず、障害が悪化すれば途中で増額も請求できる柔軟さが特徴。ただ、障害が回復すれば保険会社から減額を求められる可能性もあり、容体の確認のために保険会社から長期間接触を受け続ける負担もある。

 損保ジャパンは「被害者の選択肢が増えたものと認識している。判決内容を精査し、適切に対応していく」とコメントした。(阿部峻介)

逸失利益

 交通事故などの不法行為により、死亡したり、けがをしたりした人が将来得られていたはずの利益。障害が残った場合、裁判所はその程度に応じて「労働能力の喪失率」を決め、事故前の収入や平均賃金と働ける期間(一般的に18~67歳)をかけあわせて算出する。一括で受け取る場合、将来の収入を先に受け取ることになるため、運用すれば得られるはずの利息分(中間利息)が差し引かれる。慣例では5%の法定利率に基づき複利で計算されるため、対象期間が長くなるほど引かれる額も膨らむ。普通預金の利率が0・1%に及ばない超低金利時代の実情とかけ離れているという批判が強く、民法改正で今年4月から3%に引き下げられた。