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 感染症の検査には、病原体を顕微鏡で目視したり培養したりするもの、PCR法などの病原体の遺伝子を検出するもの、病原体の作るたんぱく質を検出する抗原検査、抗体検査をはじめとした体の免疫反応をみるものがあります。すべての検査を行うのはたいへんですし無駄です。検査のし過ぎが害をもたらすこともあります。必要かつ十分な検査を行わなければなりませんが、そのためにはそれぞれの検査の特性をよく知っていなければなりません。

 たとえば、B型肝炎を例に考えてみましょう。B型肝炎はB型肝炎ウイルスによって肝臓に炎症が起きる病気です。ウイルスですから顕微鏡では見えませんし、培養は可能ですが主に研究目的であって臨床検査では使われていません。臨床ではPCR検査、抗原検査、抗体検査が行われています。B型肝炎ウイルスの抗原、抗体は何種類かあり医学生にとって覚えるのがたいへんですが、ここでは簡略化してご説明します。

 いちばん広く行われているのが抗原検査で、血液中にウイルス粒子が存在するかどうかがわかります。検査の正確性はPCR検査に劣りますが、抗原検査の方がコストが安いです。入院患者さんに対するスクリーニング検査や、原因不明の肝障害の最初の精査によく利用されます。

 PCR検査はコストがかかりますので、たいていは抗原検査でB型肝炎と診断された人に対して行われます。PCR検査では血液中のウイルスの量がより正確にわかりますので、治療の必要性や治療効果を判断できます。また、遺伝子を増幅させるという特徴から抗原検査よりも感度が高く、ウイルス量が少ないことが予想されるときは抗原陰性でもPCR検査を行います。

 抗体検査は、感染している今現在だけではなく、過去に感染していても陽性になります。また、抗体にもいろんな種類があって、感染してすぐに陽性になる抗体、しばらく時間が経たないと陽性にならない抗体、ウイルス粒子を中和する抗体などがあり、病態を把握する役に立ちます。たとえば、ごく最近ウイルスに感染して起きた急性肝炎なのか、それとも、ずっと以前から感染していた慢性肝炎が急激に悪化したのか、抗体検査で区別できます。

 ごくまれですが、抗原検査やPCR検査が陰性の人から献血された血液を輸血することでB型肝炎ウイルスが感染することがありました。これは、過去に感染しそのまま治ったと思われた人の血液中に、PCR検査でも検出できないほど微量のウイルスが入っていることがあるからです。輸血はきわめて高い安全性が要求されるので、少しでも感染が疑われる方の血液はいまでは輸血には使われていません。

 同様に、抗原検査やPCR検査が陰性で抗体が陽性の人に、抗がん剤や免疫抑制剤などの免疫が落ちる治療を行うと、B型肝炎ウイルスが再活性化することがあります。なかには重症の肝炎が起き死亡することもありますが、早めに抗ウイルス剤を使えば予防できます。ガイドラインでは、B型肝炎の抗体が陽性の人に免疫が落ちる治療をするときには1~3カ月ごとにPCR検査を行って陽性になった時点で抗ウイルス剤を投与することが推奨されています。

 このように、一口に検査と言ってもそれぞれ長所、短所があり、適材適所の使い分けが必要です。

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。