ドラマみたいな同点本塁打 2年後、同じ相手に再現へ
攻守交代の際、ベンチから守備位置までは全力ダッシュ。「落ち着いていこう!」。試合中の声かけはひときわ大きい。7月5日に石川県白山市の翠星高校のグラウンドであった練習試合。穴水の唯一の3年の沢田晴人は公式戦さながら、全力だった。
最後の夏を、複数校が集まった連合チームの二塁手として迎える。
新型コロナウイルスの影響で、チームの結成自体が遅れた。始動したのは6月20日。県大会開幕までわずか3週間だ。全体で集まるのは、週末に練習試合をする4日のみ。この日が、大会前最後だった。
4日で5試合を戦い、4勝1敗。「連合なのに連合じゃないみたい。いいゲームができている。最後の大会も全力でやりたい」
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ただ、当初は野球に前向きではなかった。
「野球は中学まででいいかな」。2年前の4月、沢田は入部すら迷っていた。なんとなく野球に積極的になれなかったものの、「とりあえず」練習を見学。部長の花園修兵(36)に「絶対後悔させん」「夏まででもいいから」と説得され、ただ一人の1年の選手として入部した。
その年の夏、穴水の選手は沢田を含め、10人だった。現時点で単独出場した最後の大会になる。試合に出た沢田はその時、先輩のあるプレーに魅了された。
初戦の金沢龍谷戦。3点リードされた六回裏無死一、二塁の場面。主将が放った打球は金沢市民野球場の観客席に吸い込まれた。同点の3点本塁打だった。「ドラマみたいだな。自分も3年の夏に打ちたい」。胸が熱くなった。
試合はその後、相手に打ち込まれ、8回コールド負け。ただ、試合後、夏以降も野球を続けたいと思う自分がいた。「辞めるとか考えることはなくなった」
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一つのプレーが人を変える。夏が終わり、3年生が引退。チームは3人に急減したが、「積極的に野球をするようになった」と花園は言う。
沢田が部に踏みとどまったことで、翌年、選手がまた一人入部した。小中時代に沢田と一緒にプレーした川崎正真(2年)。「さわっさん(沢田)がいたから入った」。花園や監督の白木正文(55)に補助に入ってもらい、練習を続けた。
今春には未経験者4人を含む6人の選手が入部。来夏には再び単独出場の芽が出てきた。「俺がおらんくなっても、(川崎が)しっかり引っ張ってくれる」。バトンを渡せた感覚だ。
慢性的な部員不足に悩まされ、コロナ禍にも襲われた。2年3カ月の野球環境は恵まれたものとは言えない。だが、充実感はある。
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連合チームの初戦は12日の予定。相手は、2年前に穴水が敗れた金沢龍谷だ。
沢田はあの時の本塁打を思い出す。「あの主将のように」。今度は自分が後輩にドラマを見せる。=敬称略(三井新)
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