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 新型コロナウイルスの影響で、ほとんどの高校の野球部で活動が休止となった。夏に向けて選手同士がしのぎを削り、チームワークを育む時間が奪われ、選手たちは個々での練習を余儀なくされた。ただ、例年とは違う時間を過ごしたことで、大きく成長した選手もいる。

 「明日は全打席ホームラン打っちゃうわ」。豊富高校(北海道)の外野手兼投手、須釜流空(りく)選手(3年)の口癖だ。お調子者で、さらに練習嫌い。鈴木快監督(34)は「自分から練習するタイプではない。ビッグマウスだけど試合であと一歩結果が出ない」と話す。小学校から12年間同じクラスの新野篤哉主将(3年)も「良く言えばムードメーカー、悪く言えばうるさいやつ」と笑って語る。小1で少年野球団に入ったが「ゲームする時間が取れない」と2年で辞めた。本格的に野球を始めたのは中学からだ。

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 休校で練習ができなくなった3月。「練習しなくてもいいんだ」と、須釜選手には少しうれしさもあった。休校中は部員みんなで遊んだり、たまに走ったりする程度だった。

 2回目の休校となった4月中旬からは、部員たちで話し合い、家の近い選手同士で毎日、キャッチボールやティーバッティングをすることが決まった。須釜選手は新野主将と同じ班。「またさぼってんな」と注意されるので、渋々練習に取り組み始めた。

 そんなとき、新野主将からふと「こんな形でも最後の年だ。頑張ろうな」と声をかけられた。必死に練習をしている新野主将の姿を見て、「再開したときの試合で、下手なプレーをして迷惑はかけられないな」と感じた。そこからは身を入れて昼過ぎまで練習し、午後は他の部の友達と山を走って体力アップに努めた。

 しかし、5月20日。夏の大会中止のニュースが飛び込んできた。それ以降、「大会がないなら、何のための練習だ」と考える日が増えた。もういいかと、部の決まりで2年半我慢している大好物のコーラに手を伸ばしかけた日もある。だが、ここで自分に負けたら格好悪い、仲間と最後までやり抜きたいとこらえた。代替大会の開催を信じて、淡々と練習を積み重ねた。

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 部活動再開の6月1日、鈴木監督は11人の選手全員を約1カ月半ぶりにグラウンドに集めた。全員の顔を見渡した時、ひときわ日に焼けた選手を見つけ「えっ」と驚いた。須釜選手だった。

 ピッチングをさせると、明らかに以前よりも球速や変化球の切れが増していた。この長い休みでは遊んでしまうだろうなと想像していただけに、笑みがこぼれた。鈴木監督は「コロナで困ることだらけ。でも、僕たちが想像していた以上に、自分の力で成長している選手がいるのはうれしい」と目を細めた。

 須釜選手は「これだけ自主練習を続けたのは人生で初めてだった。自分で色々できて、自信もついた」と話す。この夏は有言実行だ。「ホームランを打つ」(前田健汰)