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 体育館裏の駐車場で、一列に並ぶ阿波西(徳島)の部員6人。体を左右に揺らしたり、唇を軽くかんだり、落ち着かない。到着した車から降りてきた選手たちの胸元には「IKEDA」の文字。かつて甲子園で春夏計3度優勝し、「やまびこ打線」で全国に名をはせた池田の助っ人たちだ。

 全国高校野球選手権大会の中止を受け、徳島県高野連が独自に開催する県高校優勝野球大会に部員6人の阿波西は、池田から2年生4人を得て出場する。

 昨夏の徳島大会以降、現3年生3人、2年生2人の計5人だった阿波西。この春、「何とか人数を集めよう」としたが、新型コロナウイルスの影響で5月下旬まで休校が続き、勧誘活動はままならず新入部員は1人だけ。他部から助っ人を集めることも難しかった。

 そんな中、阿波西に思わぬ救いの手が入った。佐藤豪(ごう)監督が出場辞退を伝えるつもりで臨んだ監督たちの会議で、部員不足で出場できないという阿波西の状況を初めて知った池田の井上力監督が黙っていられず、その場で選手の派遣を申し出てくれたのだ。

 かつて「攻めダルマ」の異名をとった故・蔦(つた)文也監督の攻撃野球で全国的な人気を集めた池田。2014年の選抜大会を最後に甲子園から遠ざかっているが、少子化が進む県西部にかかわらず、今でも県内外から甲子園を目指す子どもたちが集まり、全選手51人を擁する。井上監督は「同じ高校野球をする仲間。お力になれればと思った。うちの部員にとっても、大人数で練習でき、競争できる環境のありがたさを分かる貴重な機会になる」と話す。佐藤監督は「野球ができる環境はあって当たり前ではなかった。出場を辞退するつもりでいたので、本当に感謝しかない」と口にする。

 6月下旬、那賀との練習試合で初めて顔を合わせた両校の選手たち。佐藤監督は池田の選手4人に伝えた。「お手伝いと絶対思わず、自分のステップの場となるように、自分のために全力でプレーをして」

 試合中、序盤は「声を出せ!」「全員でもっと声をかけろ!」という佐藤監督の声だけが響いたが、試合が進むにつれて「ナイスプレー!」「切り替えて、切り替えて」と大きな声で自然と声が出るように。九回に池田の田中那音(なおと)(2年)が左越え本塁打を放つと、「ナイス田中!」とベンチに戻る田中の肩をたたき、手をたたいて、一つになって喜びあった。

 田中が三塁打2本と本塁打の計3安打の活躍をみせ、初陣は7―3で勝利。阿波西の投手、笠井大誠(3年)は「守備も攻撃も池田に引っ張ってもらったので、残りの期間で池田に負けないように練習したい」。田中は「最初は不安だったが、楽しかった。阿波西は人数が少ないなか、休む間もなくグラウンド整備や走塁コーチをやっていてすごいと思った」と話す。

 両校は約47キロ離れている。「池田の部員が3年生と過ごす時間を奪いたくない」という佐藤監督の思いから、数回だけ練習試合を重ね、18日、1回戦の城南戦を迎える。

 阿波西の主将、井沢翔音(しおん)(3年)は「池田のみんなやいろんな人のおかげで大会に出られて感謝の気持ちでいっぱい。恩返しのためにも、一戦必勝で頑張りたい」。(佐藤祐生)