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 田んぼに囲まれた広いグラウンドに、2人きりの野球部員の声が響く。それが岩手県立雫石高校のいつもの光景だった。

 6日、花巻市の花巻球場であった高校野球岩手独自大会の花巻地区予選。紫波総合高校との連合チームで挑んだ双子の3年生、高橋航輝君、翔大(しょうた)君(ともに17)は試合終了と同時に天を仰いだ。0―7で七回コールド負け。兄の航輝君の目から涙があふれた。「最後に勝ちたかった悔しさと、ここまで2人でやってきた野球が終わった寂しさで胸がいっぱいになった」

 2人は身長も50メートル走のタイムもほぼ同じ。ポジションも同じ外野手だ。2013年、小学生の時に楽天イーグルスが日本一になったのをテレビで見て、キャッチボールを始めた。中学で野球部に入り、高校でも野球部に入ろうと思っていたら、当時部員はゼロ。勧誘した同級生2人が入ってくれたが、秋にはやめてしまった。

 以来、練習はずっと2人。ティーバッティングもフリーバッティングも、交互にこなす。「脇たたんでっ」。インターネットや本で読んだ技術を参考に、アドバイスしあう。月曜日以外のほぼ毎日続けた。

 3年間2人を見てきた八重樫徹部長(52)は「こっちが『休め』と言わない限りずっと練習しようとする。けがするんじゃないかと心配になるくらい」と話す。新型コロナウイルスで甲子園や地方大会が中止になっても、「独自大会があるかもしれない。最後までやりきろう」と2人で声をかけ合って練習を続けた。

 雫石高校の全校生徒は78人。少子化や過疎化で年々減っている。サッカー部は2年前に休部になり、グラウンドを使う部活は野球部だけだった。2人の引退で、野球部も休部になる。

 2人とも途中でやめようと思ったことは一度もなかったという。練習後に自転車で一緒に帰るときも、家にいるときも、話題はずっと野球だった。航輝君は「野球が好きで、今しかできないこと。どうしてみんなやらないんだろうと不思議だった」と話す。

 3年間、2人で目標にしてきた公式戦勝利はかなわなかった。それでも試合後、翔大君は「兄がいたから続けられた。自分にとって3年間は財産」。航輝君も「最後に公式戦ができてよかった。2人でがんばってきた証しを少しは見せられたかな」とはにかんだ。

 グラウンドで2人で練習していると、通りがかりの人たちに「今日もがんばっているね」と声をかけられたり、差し入れをしてもらったりした。卒業後の目標は2人とも警察官になることだ。「地域にも支えてもらった。今度は自分たちが力になりたい」(中山直樹)