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 「作品の社会的意義のためや業界の激しい競争のなかでキャリアを築くことと引き換えに、パワハラや長時間労働、やりがい搾取に対してものが言えなくなる構造があると思います」

 東京と京都で映画館も営む配給会社「アップリンク」元従業員の浅野百衣(もえ)さん(31)は、記者にそう語った。2月までの約2年間、契約社員として配給宣伝や劇場を担当。「ヨーゼフ・ボイスは挑発する」「ガザの美容室」といった社会派作品の宣伝に携わった。

拡大する写真・図版会見を開いたアップリンクの元従業員たち=6月16日、東京都港区

 「作品には心を動かされたし、これからもたくさんの人に届くことを願っています。けれどスクリーンの裏側で、私たちは涙をこらえていました」

声をあげた元従業員たち

 度重なる叱責(しっせき)や暴言、勤務時間内では終わらない仕事量、終電での帰宅の日々だったという。浅野さんは「持ち帰る仕事も多く、残業に対する叱責を逃れるためにタイムカードをつけずに働いたこともあった」と振り返る。

 「無理のあるスケジュールの中、お客様に満足してもらうための負担は仕方がない、それについていけないやつは業界から消えるだろうという空気が確実にありました。長時間労働でエネルギーを奪われ、弱い立場の人は自身の被害に向き合う時間も体力もなくなってしまいます」

 浅野さんら元従業員5人は6月、アップリンクと浅井隆代表を提訴した。パワハラの謝罪と賠償に加え、「権限が集中する体制や精神論、根性論で乗り切ろうとする体質にハラスメントの原因がある」として、労働者との定期的な協議、第三者委員会の設置など、アップリンクの「変革」を求め、和解協議を行っているという。

 一方、浅井代表は「謝罪と今後の対応について」と題した文書を公表。「経営者としての力不足、叱責によってスタッフを傷つけたこと、無理な采配で過度な負担をかけてきたことを、深く反省致します」とした。朝日新聞の取材に浅井代表は「和解するまで個別にはコメントできない」と答えた。

 原告側が立ち上げた「被害者の会」には、他社の件も含む様々な被害の申し出や目撃情報、賛同の声が寄せられているという。浅野さんは「私たちと同じように悔しい思いをされていた方々がいると改めて知りました。どんな事情があってもハラスメントは許さないという社会を築く重要性を痛感しています」と話す。

 原告代理人で「SAVE the CINEMA」の呼びかけ人でもある馬奈木厳太郎弁護士は「決してアップリンクだけの問題ではない。声を上げる人が続いていくことが必要だ」と指摘する。映画界では、低予算の作品やフリーランスが多く、低賃金や長時間労働、ハラスメント、契約書がないといった課題があるといい、「コロナ禍で支援を求めている以上、映画界はそれにふさわしい状態であるべきだ。まずはどこの何が問題なのかをきちんととらえ、制度と意識の両面から変えていく必要がある」と話す。(佐藤美鈴)

殴られ、蹴られ、「帰れ」と怒鳴られた 白石和彌監督

 配給や興行の現場に限らず、製作の場でも弱い立場の人からの「搾取」は存在すると、白石和彌監督は明かす。2018年から「孤狼(ころう)の血」「ひとよ」など6作品を次々に発表し、製作現場の今の状況をよく知る一人だ。

 「演出の助手で映画界に入った…

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