拡大する写真・図版月徳飯店の糸魚川ブラック焼きそば(800円)=新潟県糸魚川市大町2丁目

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 糸魚川市のご当地グルメ「ブラック焼きそば」が誕生から10年を迎えた。故郷を思う料理人が「名物料理がない糸魚川に、新しい味を」と考案したイカスミ焼きそばだ。地元の子どもたちが舌鼓を打つ、「ふるさとの味」になりつつある。

 同市大町2丁目の「月徳飯店」。出てきた一皿に驚いた。そもそもイカスミパスタの二番煎じだと思っていた。なのに麺を覆う薄焼き卵の上にはマヨネーズとケチャップを網目状にあしらい、見た目もおしゃれ。ははん、やっぱりイタリア料理に寄せたのね――。鼻で笑いそうになった。

 黒い麺を口に運ぶ。あれ? しっかりと焼きそばの味だ。ちゃんとイカスミの風味もする。イカの身や薄焼き卵、卵の上のイカせんべいのかけら、紅ショウガが食感を変える。マヨネーズとケチャップ、トウバンジャンが味にアクセントをつけ、楽しい一皿に仕上がっていた。

 考案したのは月徳飯店社長の月岡浩徳さん(54)。ある人から「この地域には、グルメがないね」と言われたのがきっかけだった。月岡さんもそう感じ、挑戦した過去があった。

 高校卒業後、都内の大学に進学。その後、祖父徳冶郎さんの代からの店を継ぐため、横浜市内で修業した。9年後に帰郷し、感じたのは悔しさだった。「糸魚川の魚介類はおいしい。米も肉も。それが知られていないのが残念でした」

 最初に使おうとしたのは甘エビ。だが、海がしけると漁ができない。次に試みたアンコウは、キモがおいしい冬しか出せない。どちらも1年を通じて、手ごろな価格で出せるメニューにはできなかった。

 再び新しい味の創作に取りかかった時、幼いころの記憶がよみがえった。母喜久江さんが作ってくれた「イカの筒焼き」。イカの胴体にゲソとタケノコ、シイタケを詰め、甘じょっぱいみそで焼いた料理だ。夢中になって食べた。

 月岡さんが小学生のころ、県内では2万トン前後のスルメイカが水揚げされていた。「糸魚川でも当たり前の食べ物でした。冬はヤリイカ、3~5月はホタルイカ、秋はコウイカとアオリイカ。そして通年でスルメイカが揚がるんです」。こうしてブラック焼きそばは誕生した。

 現在、ブラック焼きそばはほかの店でも食べられる。ルールは中華麺とイカスミ、イカの身を使うことだけ。だから店によって具材やトッピング、彩りは様々だ。ただ、守れなくなったルールがある。「糸魚川のイカを使う」ことだ。

 近年、イカは全国的に不漁が続く。県内でのスルメイカの水揚げは1千トン前後まで減った。糸魚川では20トンほどだ。月岡さんは今、悔しい思いで市外のイカを使っている。「糸魚川産にこだわりたい。地元の生産者も潤う料理じゃないとだめなんです」

 光明もある。若い世代に受け入れられていることだ。月徳飯店にも高校生がブラック焼きそばを目当てにやってくる。「子どもたちにも認知されてきたと思います」。誇らしげに月岡さんは笑った。(鈴木剛志)

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 ブラック焼きそばが食べられる店 オーシャンテーブルマナオ▽月徳飯店▽居酒屋源兵衛▽タウンいとよ▽居酒屋多喜▽食・酒・場いといがわ&膳処くろひめ▽ラーメンハウス東寺町店▽食事処大瀬▽らーめん・中華龍喜▽漁師の店煌凛丸▽リーフキッチン▽ブォーノ▽あおい食堂▽上乃家(以上、糸魚川市)▽新潟ふるさと村B級グルメ横町(新潟市西区)。詳しくは、月岡浩徳さんが会長を務める「糸魚川うまいもん会」のホームページ(http://itoigawa-umaimonkai.com/umaimonkai/別ウインドウで開きます)で。

拡大する写真・図版月岡浩徳さん=新潟県糸魚川市大町2丁目の月徳飯店