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 新型コロナウイルスの感染が広がる中、国立病院機構八雲病院(北海道八雲町)から病状の重い入院患者を約250キロ離れた病院へ運ぶのは命を脅かす行為だとして、八雲町の男性が13日、筋ジストロフィーの次男の移送中止を求める仮処分を函館地裁に申し立てた。患者約140人を医療関係者延べ約190人で3日間に分けて運ぶ計画の危険性を指摘し、8月中旬に迫った移送をやめるよう訴えている。

コロナ感染で重症化懸念

 申し立てたのは小林石男さん(71)。次男の徹さん(46)は全身の筋力が徐々に低下する難病の筋ジストロフィーの治療で八雲病院に入院している。運営する独立行政法人・国立病院機構(本部・東京都)を相手取り、仮処分を求めた。

 機構は2015年6月、高齢化する患者の合併症の治療に対応するため、北海道医療センター(札幌市)などへ機能を移す基本構想を公表。今年8月末で八雲病院を廃止する。

 申立書で、筋ジストロフィーの患者は抵抗力が弱く、新型コロナに感染すると重症化のおそれがあると指摘。転院先の北海道医療センターが新型コロナの患者を受け入れていることに加え、道外の医療関係者や運送業者が移送を手伝うことで感染リスクが高まると訴えている。

 機構の担当者は取材に対し、「移転先の病院のほうが、万が一感染した場合にすぐに対応できる設備がある。移送にあたっては専門医の意見も聞いたうえで、できる感染防止対策はすべてしている」と話した。

「せめて遅らせて」

 「八雲から離れたくない」。仮処分を申し立てた小林石男さんは昨年末、町内の実家へ帰省した次男の徹さんの言葉をおぼえている。それでも、「移転はやむを得ないと本人も思っているでしょう」と、複雑な心境を明かす。

 徹さんは6歳で八雲病院に入院し、併設の道立養護学校に通った。小さいころは走ることもできたが、病状が徐々に悪くなり、10歳を過ぎたころには車いすに乗るようになった。今は1日の3分の2ほどをベッドの上で過ごす。ベッド前にあるモニターを見て、わずかに動く指でマウスのような特別な装置を使い、ネット通販で買い物をすることもある。

 石男さんが病院から車で15分ほどの場所に住んでいるからこそ、徹さんは年3回ほど自宅に泊まりがけで帰れた。病院では食べられないマグロの刺し身をおいしそうに食べ、6歳下の弟夫婦と話した。

 札幌に移れば帰省も簡単ではない。石男さんは、町内にも病院機能を残すよう求める活動をしてきた。だが病院側は計画を見直さず5年が過ぎた。

 函館地裁に出した陳述書には、コロナがなければ「(移転は)もう仕方のないこととあきらめたでしょう」と記した。それだけに性急に見える移送は許せなかった。「コロナの状況を見て、せめて移送を遅らせてほしい。できる限り安全に移動させたい」(天野彩、原田達矢、伊沢健司)

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 〈国立病院機構八雲病院〉 筋ジストロフィーと、重い身体障害と知的障害を併発する「重症心身障害」の専門病院。6月30日現在、計194人の患者が入院している。9月1日、北海道医療センターと函館病院(函館市)に機能を移転し、両病院など3カ所に患者を移す。患者の移送は、民間救急車や福祉車両延べ123台を使い、8月18日からを予定している。一部の患者家族や職員が、新型コロナウイルス感染症の収束まで移転延期を求めている。