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 「甲子園ないねんから、やる意味ない」「受験に向けて勉強したい」

 「やる気がないならチームの士気に関わる。やる気のあるやつだけでやる」

 全国高校野球選手権大会と島根大会の中止決定から3日後の5月23日、益田東の3年生約50人が、教室に集まって本音をぶつけ合った。

 同校は約130人の全部員が寮生活を送り、110人ほどは近畿圏など県外からの「野球留学生」だ。「夏の甲子園」という全員の夢が消えた影響は、すぐに表れた。寮で禁止されている甘いお菓子や炭酸飲料を飲食したり、午後10時半の消灯時間を過ぎても携帯で遊んだり。練習場にはかけ声が響かず、スライディングを怠るなど、普段では考えられないプレーも続出した。

 3年生同士のミーティングは、見かねた大庭敏文監督が「もう一度、気持ちを引き締め直してもらいたい」との思いから、白木絢大(あやと)主将(3年)に指示したものだった。しかし、部員同士の亀裂は収拾がつかないほどに広がっていた。

 ミーティングは教室からグラウンド脇の一室に場所を移し、大庭監督も加わった。大庭監督は県大会開催の可能性を示した上で「仲間のためにプラスになると思うなら、サポートに回ってもらってもいい」。

 こう話す監督に、三藤和紗(かずさ)君(3年)は目標を失った自身の思いを正直に伝えた。「サポートに回って仲間を支えるか、選手として真剣に練習を続けるか、どっちか選べと言われても、すぐには言えません」

 大庭監督は、部員の喪失感に思いを寄せつつ、「甲子園がなくなったときこそ、おまえらの価値が出てくる」と語りかけた。

 三藤君は当時の気持ちについて、「これまでやってきたことは何だったんだろうと悔しかった。甲子園がないなら、練習しても意味がないと思った」と振り返る。

 ミーティングを経て、グラウンドに熱気が戻ってきた。

 副主将の久保永輝(とわき)君(3年)は「野球をやってたから大好きな仲間に出会えた。いまではみんなと独自大会の優勝に向かって試合ができることがうれしい」。三藤君もミーティング以降、やめていた朝晩の自主練習を再開。「完全に切り替えるのは難しいけど、ここで諦めたら、信じて応援してくれる親や3年生の仲間にも申し訳ない。最後まで笑顔で野球を楽しみたい」(清水優志)

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 夏の甲子園の中止を受け、一人でも多くの選手に最後の独自大会を経験させようと、3年生中心のメンバーで戦うことを決めたチームも多い。100人を超える部員を抱える強豪・立正大淞南は、試合ごとにベンチ入りする選手を入れかえる方針。太田充監督は「監督にとって一番いやなことは、選ばれない選手が出てしまう夏の大会のメンバー発表。大会が甲子園につながらないのは残念だが、成果を示せる場がみんなにできたのは良かった」と話す。

 一方で、3年生にとって気持ちの切り替えは難しいとも感じている。太田監督は「甲子園に代わるものはない。一人ひとりが時間とともに受け入れながら、新たな目標を見つけるしかない」。