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 第163回直木賞に、馳星周さんの「少年と犬」が選ばれた。1996年に「不夜城」でデビューし、直木賞候補になってからじつに7度目の候補入りでの受賞となった。選考会の15日、馳さんは、故郷の北海道にいた。

 初めて候補になったのは23年前。「7度目の正直」の吉報は、襟裳岬に近い故郷の北海道浦河町で、仲間と共に聞いた。「役場の人、同級生、みんな僕が競馬のGⅠレースを勝ったように喜んでくれた」。東京とつないだ中継会見の画面越しに、歓声が聞こえた。

 大学入学とともに上京、日本冒険小説協会会長の故内藤陳氏が経営する新宿ゴールデン街のバーで働いた。編集者や書評家を経て、新宿・歌舞伎町の暗がりにうごめく人間の欲望を描いた「不夜城」で鮮烈なデビューを飾った。暗黒社会を描く「ノワール小説」の旗手として注目を集めた。

 10年後、東京を脱出し、長野・軽井沢に移住した。きっかけは余命いくらもない愛犬のためだった。40代も半ばになって、肩の力が抜けた。「書きたいものを書きたいときに書くようになった」。犬と共に生きる喜怒哀楽を描いたり、山岳小説、歴史小説を書いたりと幅が広がった。「基本的に、馳星周という小説家の本質はいろんなものを書いても変わらない」

 受賞作で描いたのは、犬と人との「魂の絆」だ。東日本大震災の被災地から、一頭の犬が南を目指して旅を続ける。道中、行きあった人間たちから様々な名前で呼ばれ、犬は彼らの「愚かさ」にそっと寄り添う。「犬は無償の愛のお師匠さま。人間は自分も含めて、愚かでどうしようもない」。いまも2頭の愛犬と暮らす。

 昨年に続き、夏を浦河で過ごしている。競走馬の産地でもある、この地を舞台に連載も始めた。「至高ですよ。年を取ると、こんなに良い町だったのかと思う」