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 「野党は批判ばかりで、生産的ではない」。日本でたびたび聞いてきたそんなフレーズを思い出した。10日に投開票されたシンガポールの総選挙の取材中のことだ。

 アジア屈指の経済成長を遂げ、カジノやリゾートといったきらびやかなイメージがあるシンガポールだが、政治的には1965年の独立以来、与党・人民行動党(PAP)による事実上の一党支配が続いている。93議席を争った今回の選挙でも、与党が83議席を確保。野党は、最大勢力の労働者党(WP)が10議席を得ただけに終わった。だが、これでも野党にとっては過去最多の議席獲得だ。大喜びする支持者たちの「与党にない視線を国会に持ち込んで批判できる」といった言葉に、野党の存在意義を改めて考えさせられている。

拡大する写真・図版海外から人材、資本が集まるシンガポールの中心部には、ガラス張りの高層ビルが立ち並ぶ=西村宏治撮影

生活不安と与党への不満

 国会議事堂などが並ぶ中心部から東へ10キロ余り。イーストコーストと呼ばれる地区の公共団地を訪ねたのは、投票日の2日前のことだった。

 シンガポールでは国民・永住権者の8割は公共団地に住む。団地の一角にはフードコートが併設されていることが多く、お年寄りを中心に、朝からごはんを食べたりお茶を飲んだりしながら世間話に花を咲かせる人たちも多い。そこを次期首相と目されているヘン・スイキャット副首相が訪れ、支持者との写真撮影に応じながら選挙ビラを配り歩いていた。

 私も、地元の住民に声をかけてみた。

 「選挙と言えばPAPだ。他にはない」。年金暮らしという男性(72)はそう言った。「子どものころ、チキンがごちそうだった。めったに食べられなかった。それがいまは毎日チキンを食べられる。文句はない」

 確かにシンガポールの経済成長はめざましい。世界銀行の統計によれば、1人当たり国内総生産(GDP)は1989年の1万ドル(約107万円)余りから、2019年の6万5千ドル(約700万円)ほどに成長。日本は4万ドル(約430万円)ほどで、シンガポールには2007年に追い抜かれ、その後しばらくは競ったものの2010年以降に差をつけられた。

 この経済成長を引っ張ったのが「建国の父」故リー・クアンユー初代首相であり与党・人民行動党だった。インフラを整備し、外国資本を呼び込み、教育制度を充実させた。さらに公共団地を用意して住環境を整えた。今でも公共団地に住む人の9割は、賃貸ではなく持ち家だ。こうした実績が、与党支持の基盤になっている。

 与党は今回、新型コロナウイルス対策での実績をアピールした。感染者数は約4万7千人に上っているが、そのうち約4万4千人は低賃金の外国人労働者向け宿舎に住む人たちだ。国民への広がりは限定的だという受け止めが多い。

 そんな与党を評価する声があっ…

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