拡大する写真・図版春風亭一之輔さん=6月、東京都新宿区の新宿末広亭前

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 年間800席もの高座をこなし、ラジオやテレビ、雑誌でも活躍する注目の落語家、春風亭一之輔さん(42)は、新型コロナウイルス感染拡大による自粛要請の中でも、新境地を開きつつあるようです。落語や寄席への思い、そして家族について、縦横無尽に語ってくれました。

記事の後半では、一之輔さんのインタビューをお読みいただけます。

 ぼそぼそ仏頂面でしゃべりだし、噺(はなし)に入れば登場人物たちが自在に暴れ回る。間抜けな亭主に弁の立つ女房、生意気な子ども。口笛を吹いたりアニメの話題を口にしたりしながらも、お互いを気遣うやさしさにあふれて、高座には落語の風情がふわふわ漂う。

「チケットのとれない落語家」が生まれるまで

 東西の落語家が800人を超す落語ブームの中、一頭地を抜く。NHK新人演芸大賞など若手対象の賞を総なめし、年功序列の落語界では異例の21人抜きで真打ちに昇進した。いまや「チケットのとれない落語家」と呼ばれ、雑誌や新聞の連載にラジオ、テレビのレギュラー番組と大車輪の活躍だ。

 「挫折とか、つらかったことが一回もないんですよね、落語家になってから」。修業の苦労は口にしない。

 不遇の時期はあった。中学まで学級委員に指名されるような優等生は、進学校での高校生活で一変する。成績は学年の最下位争い。ラグビー部を1年でやめ、ぶらぶらしていた東京・浅草で寄席に足を踏み入れる。「同年代が来てない、サブカルな趣味。いいもん見つけた」と通い始めた。

 大学受験に失敗し、落語家への志が芽生えた。このときは親に反対され、浪人して大学へ。ブーム前夜の当時、落語研究会の学生は変わり者扱いだった。おまけに卒業時は就職超氷河期。就活はせずに入門している。

高座を連続生配信、ついに海を渡る

 順調すぎる噺家人生に今春、試練が訪れた。新型コロナによる自粛要請で寄席や落語会が中止に。年800席といわれる高座が、急になくなった。

 すると、ユーチューブに個人のチャンネルを立ち上げ、本来は寄席で主任(トリ)を務めていたはずの日時に合わせて10日間、落語を無料でライブ配信した。

拡大する写真・図版2度目の10日間連続落語生配信を5月に実施した。普段の高座も反応を気にせずマクラで好きなことをしゃべるという。「向いてるのかな、無観客で配信するの」=5月、東京都千代田区

 所属事務所での会議で自ら訴えた。「のんきに構えてたんですけど、何かやんないとね、錆(さ)びてきちゃう。あと、暇なんで」。日がな一日、コーヒーを飲んでぼんやり座っていると、妻の雷が落ちた。「いつまで家にいるんだ! 老後みたいだ」。別の理由もある。「お客さんに、落語を聞かなくても平気だって気づかれると困るんで」

 告知映像で、カメラに向かってほえた。「頼むよ! 聞いてくれよ!」。少し、マジな顔を見せた。

 ライブ視聴は連日1万人を超えた。途中から投げ銭機能を設けると、欧州や米国からの寄付もあり、数十万円に達した。落語会のプロデュースも手がけるお笑い芸人のサンキュータツオさんは、その取り組みを「エポックメイキングだった」と評価する。

 落語家は人気が出ると、もうかる独演会を増やし、「落語とはこうだ」と理論武装しがちだ。なのに、この人は「独演会だけやってると僕は駄目」「噺家はいろんな人がいた方がいい」。バランス感覚が本領だ。(文・井上秀樹 写真・角野貴之)

拡大する写真・図版新宿末広亭の前で。「72歳ぐらいで半隠居みたいな感じで、『あの人、独演会とかやんなくなっちゃったね』『寄席行くと出てるみたいよ』とか言われたい」

ここからは、一之輔さんのインタビューの一問一答です。ひょうひょうとした語り口の中にも、寄席と落語への深い愛情が浮かび上がります。

配信落語は「すべらない」

 ――10日間連続落語生配信をやり終えた感想は。

 結構見るんだなと思いましたね…

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