列車内でもかけてください みな願った「さいごの電話」
佐藤恵子
終電まぎわの列車に揺られ、斎藤泰臣(やすおみ)さん(43)はひとりぼんやりとしていた。窓ガラスの向こうを夜が流れてゆく。横並びのシートには数人が座っていた。サラリーマンやイヤホンをつけた若い人。車内にはレールの音だけが響いていた。
JR長崎線。佐賀県内の自宅へ帰る途中だった。数年前の暮れのことだ。
やがて、小声の会話が斎藤さんの耳に入ってきた。
「病院まで遠い……」「さいごの会話に……」
近くに座っていた60代くらいの男女。夫婦だろうか。2人で携帯電話を見つめている。
「電話した方がよかよ」「迷惑になる。駅に着いてからでよかやん」
せかす妻。周囲を気にする夫。列車は音を立て、走り続ける。2人の声も少しずつ大きくなった。
「意識がなくても耳は聞こえるって。おとうさん、待っとるよ」「列車だから、かけられんやん」
夫の父親が危篤で、駆けつけ…