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 もう、「好投手を生む県」と言っていいのかもしれない。岩手のことだ。昨年は大船渡の佐々木朗希(現ロッテ)にわいたが、今年も球速が140キロを超える投手が強豪私学だけでなく公立にも多かった。その背景を探ると、あるボールの存在が浮かんできた。

 決勝を残すのみとなった岩手独自大会。菊池雄星(花巻東、マリナーズ)、大谷翔平(花巻東、エンゼルス)、そして佐々木と続いてきた岩手県出身好投手の系譜は、今年も続いていた。

 花巻東の松本遼大(りょうだい)(3年)は188センチ、92キロの堂々とした体格から最速146キロの直球を投げ込んだ。高田の佐藤真尋(まひろ)(3年)は140キロ台の直球もさることながら、鋭いスライダーでチームを4強へと導いた。盛岡工の昆野漱太郎(3年)は初戦で147キロを計測した。

 なぜ岩手からこんなに好投手が? そんな取材を昨年もした。睡眠時間が長いので、体が大きくなる。菊池雄星の活躍で、みんな自信を持った。自然が豊かなので、幼い頃から外遊びで体が鍛えられる……。いろんな説が出てきた。しかし、もっと直接野球の技術に結びつくような理由はないのだろうか。

 「『Kボール』は大きいと思うんですよね。中学の部活を終えても、秋までレベルアップできる環境がある」。そう話すのは、大船渡市立第一中の野球部でコーチを務める鈴木賢太さんだ。中学時代の佐々木も指導した。

 Kボールとは、中学の軟式野球から高校の硬式野球へのスムーズな移行をめざし、2000年に開発された。ゴム製で内部が空洞の構造は軟球と同じだが、重さや大きさは硬球と同じ。反発係数もできるだけ硬球に近づけた。岩手では01年、千葉とともに全国に先駆けて、このKボールを使った大会が始まった。

 中学生の野球は、シニアやボーイズといったクラブチームで硬式野球をするか、学校の部活動で軟式野球をするかにわかれる。菊池や大谷は前者。佐々木や、今年の松本、佐藤、昆野は後者だ。

 岩手では、中学の部活で出場する大会が夏に終わるとKボールが待っている。学校単位ではなく、地区で選抜チームをつくって試合をこなす。さらに選手を選抜して県代表を編成し、全国大会へ挑む。「選抜チームだから、各中学の主力が集まるわけです。ずっとレギュラーだった子が、初めて控えを経験することもある。そこでまた競い合う」と鈴木さんは話す。

 そして岩手の場合、Kボールの大会には独自ルールがある。岩手県KB野球連盟の下川恵司理事長が明かす。「ストライクゾーンが広いんですよ。バットが届く範囲は本塁の外側でもストライク。高さも胸のちょっと上くらいまでストライクです。送りバント禁止の大会もあります」

 四球を待ったり、小技に頼ったりせず、積極的にバットを振るように仕向けることで打力向上を狙った。それが、四球をおそれず、思い切り投げ込めるようになったことで投手力アップにもつながった、と下川さんは考える。

 反発係数を抑え、硬球に近い感覚でプレーできる軟球「M号」が17年に誕生したことにより、Kボール自体は国内大会では使われなくなった。しかし、岩手の独自ルールは不変。20年にわたる地道な取り組みが実を結び、これからも好投手が続々と誕生するかもしれない。(山下弘展)