拡大する写真・図版佐藤仙務さんは外出するときもストレッチャー式の車椅子を使っている(本人提供)

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 「大変申し訳ないのですが、大家さんが入居は嫌だと言ってるんですよ」

 電話口の相手は不動産会社の担当者だ。私が「大家さんは具体的に何が嫌だとおっしゃっているのでしょうか?」とたずねると、電話口の担当者は少しの間、沈黙した。

沈黙のわけとは

 これは昨夏の話だ。愛知県東海市で「仙拓」という会社を経営している私は、新しいオフィスを探していた。普段は、地元である東海市で活動していて、東海市内でアパートを借りている。ただ、東京や大阪といった遠方から訪れるクライアントが増えたため、東海市のオフィスに加え、新幹線からのアクセスが便利な名古屋駅の近くにもオフィスを借りようとしていた。

 といっても、私の会社にはそれほど潤沢な資金はないので、賃貸のオフィスマンションを考えていた。

内見に行く

 インターネットで希望する予算や立地などを入力し、条件に合うオフィスを探した私は、いくつか候補を絞ってスタッフと一緒に内見へ行くことにした。内見のときにチェックするポイントはいくつかある。

 玄関に段差はあるか。段差がある場合、代わりのスロープはついているか。建物が2階以上ならエレベーターも必要となってくる。こうしたポイントの中でも、特に重要なのは“車椅子が部屋まで入るか”という点だ。

拡大する写真・図版佐藤仙務さんが使っているストレッチャー式の車椅子(本人提供)

 私の場合、みなさんがイメージするような一般的な車椅子ではない。自分で座位が保てず、寝たきりの生活を送っている。すると、車椅子もストレッチャー式になるので、当たり前な話なのだが、エレベーター内も結構広いスペースがいるのだ。

 そうやって、障がい者の当事者として必須の条件に加え、立地や予算といった会社としての希望条件を絞っていくと、選択肢はかなり少なくなる。が、諦めずに探し続けていれば1、2件は見つかるものである。

 不動産会社の担当者に案内され、スタッフと一緒に内見した私はその物件が気に入り、担当者にその意向を伝えた。すると、担当者も「確かに佐藤さんの条件なら、ここが一番良いかもしれませんね」と言ってくれ、入居審査にかけてくれると約束してくれた。審査結果は後日電話で連絡をくれるといった。

予想外の展開

 数日後、不動産会社の担当者から電話が入った。電話に出ると、担当者の声は明らかに元気がなかった。思わず私が、「審査結果ってどうなりました?」と聞くと、「すみません。駄目でした」と覇気のない声が返ってくる。

 状況がよくわからなくなった私は、「何か書類に不備がありましたか?」とか、「もしかして、車椅子で部屋が傷つくのが心配ですか? それなら…」と矢継ぎ早に質問したが、担当者は私の話を遮ってこう言った。

 「佐藤さんが内見された日、偶然、大家さんが佐藤さんを見かけたんですよ」

 私は一瞬、それの何が問題なのか全く理解できなかった。すると、担当者はこう続けた。

 「それで内見が終わった後、すぐに大家さんから電話があったんです。さっきの人は断ってくれ、と」

 私が「なぜですか?車椅子だからですか?」と聞くと、担当者は言いづらそうにおどおどした声になりながら、「他の人に迷惑なんです、とおっしゃっていました…」と答えた。

衝撃の一言に

 私も感情的になり、「他の人に迷惑かけないようにします。エレベーターだって人混みの時間も避けて、他の方に譲りますから…」と少し大きな声で弁明を始めるが、担当者は「佐藤さん、車椅子なら良かったんです。本当に。ただね、車椅子ではなく、ストレッチャーで寝たままの状態の人が入居されると、大家さんはそれ自体が嫌なんですよ」

 まさしく差別だった。私はその言葉で急に意気消沈してしまい、「分かりました。では、またの機会にお願いします」と言って電話を切ろうしたが、なぜか最後に「すみません、言いづらいことを言わせてしまって。また他を探しますし、全然大丈夫ですよ」と、強がりを言ってみせた。だが正直、気持ちは落ち込んだ。スタッフたちになんて説明すればいいのか。

 一晩考えた私は翌日、スタッフたちに連絡を入れた。

後編に続く
新たな物件探しの際、ストレッチャー式の車椅子だからという理由で入居を断られた佐藤仙務さんはこれからどうなるのでしょうか。後編は8月13日に配信予定です。

佐藤仙務

佐藤仙務(さとう・ひさむ)

1991年愛知県生まれ。ウェブ制作会社「仙拓」社長。生まれつき難病の脊髄性筋萎縮症で体の自由が利かない。特別支援学校高等部を卒業した後、19歳で仙拓を設立。講演や執筆などにも注力。著書に「寝たきりだけど社長やってます ―十九歳で社長になった重度障がい者の物語―」(彩図社)など。ユーチューブチャンネル「ひさむちゃん寝る」では動画配信も手がける。