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 主治医に健康食品など民間療法(補完代替療法)のことを相談したら、どう対応されたか? 患者を対象としたアンケートなどでは、「肯定も否定もされなかった」というケースが大半を占めているようです。医師を対象としたアンケートでも同様な回答をしている人が多いようです。

 もっと具体的な情報として患者さんから教えてもらう機会があり伺ったところ、『どうぞ、ご自由に。ただし、自己責任で』と、なんだか突き放されたような対応を主治医からされてしまったとのことでした。

 なぜ医師は補完代替療法に関して親身になって相談に応じてくれないのでしょうか?

今回は、医師の視点で補完代替療法とどう向き合っていけばよいのかについて考えてみます。

医師は補完代替療法を学んだことがない

 医師が患者からの補完代替療法に関する質問に十分な対応ができない理由の一つに、大学医学教育において学ぶ機会がなく知識を持ち合わせていないことがあります。

 文部科学省が定める「医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版)」においても、健康食品、鍼灸(しんきゅう)、ヨガなどの補完代替療法は、医師として学ぶべき項目に挙げられていません(※唯一、「漢方医学(漢方薬)」は取り上げられています)。ですから、医師国家試験にも出題されることはありません。そのため、実際の医療現場では、医師と患者の腹の探り合いのような事態が起きてしまっているかもしれません。

拡大する写真・図版補完代替療法をめぐる医師と患者の思いは(島根大・大野智さん提供)

 なお、世界医学教育連盟が定めたグローバルスタンダードに準拠した「医学教育分野別評価基準(日本語版)」には医学教育の質向上のため確実に実施すべき項目として「補完医療との接点を持つこと」が挙げられています。なお、補完医療には、非正統的、伝統的、代替医療を含むとされています。

 海外の話であって日本は事情が違う……と逃げるわけには行かず、実は日本全国の大学医学部は、この医学教育分野評価基準に従って国際認証を得るため奔走しています。筆者個人の関心事として、補完医療について、どのような講義が行われているのか気になるところです。

なぜ患者は補完代替療法にひかれるのか?

 補完代替療法について知識がないからといって、医師が患者からの相談に真摯(しんし)に対応しなくてよい、というのは言い訳にはなりません。ですが筆者自身、医師たるもの補完代替療法について知識を身につけるべきだ、と声高に主張したいわけではありません。

 ここでいったん考えてみたいのは、なぜ、患者さんは補完代替療法に関心を持つのか?あるいは利用しているのか?についてです。

 筆者が専門にしている、がんの医療現場を例に考えてみます。

 緩和ケア領域におけるアンケートでは、補完代替療法を利用するにあたって期待しているのは「精神的な希望」を挙げた人が最も多い結果となっています(文献1)。つまり、患者さんは医学に関する知識が乏しいゆえに健康食品で病気が治るとだまされ信じ込んで利用している、というわけでは必ずしもないようです。

 もう少し、踏み込んで考えてみます。

 そもそも、患者さんは、がんと診断される前は、補完代替療法について興味すらなかったはずです。そこで、がんと診断されると患者さんの身に何が起こるのかをちょっと考えてみます。

 現在、がんの告知は、ほぼすべての患者さんにおこなわれています。また、病気の進行度や治療の内容についても、インフォームド・コンセントの名のもと、詳しく説明されています。

拡大する写真・図版「がん」と診断された起こること(島根大・大野智さん提供)

 上のイラストのようなやり取りでは、患者さんの不安や気持ちの落ち込みは置いてきぼりかもしれません。さらに追い打ちをかけるような発言が医師からなされるケースもあるようです。

 ある患者さんから教えてもらったことです。人の悩みの大部分は「過去への後悔」と「未来への不安」から生じているとのことでした。それにもかかわらず、医師は患者さんの傷口に塩を塗るようなことを平気で言ってくるというのです。

拡大する写真・図版「がん」と診断され、患者の悩みは募るばかり(島根大・大野智さん提供)

 読者の中で医療者がいらっしゃったら、どうでしょう。身に覚えがないでしょうか?

 ここで、患者さんの気持ちについて考えてみます。

 がんと診断されて後悔・不安・葛藤に襲われているにもかかわらず医師は向き合ってくれない、そんな状況に置かれた患者さんは、なんとかして悩みを自分で解決しようと思い至るに違いありません。そして、インターネットで情報を収集したり、本屋の医学書コーナーに足を運んでみたりすると、アンケートで回答の多かった「精神的な希望」を与えてくれる補完代替療法が待ち構えていた、ということが起きているのかもしれません。

 もしそうであれば、患者さんが補完代替療法に関心をもったり利用したりするのは、もとをたどれば医師が患者さんの悩みにきちんと向き合っていない結果の表れと言われても仕方がありません。

補完代替療法の相談に応じることは無駄なのか?

 筆者自身、なんでもかんでも補完代替療法を擁護したいわけではありません。

 医師の中には、詐欺的な手口で患者さんがひどい目にあった、という経験をされたことがある人もいると思います。しかし、補完代替療法を悪者に仕立て上げても、この世から消えてなくなるわけではありません。話が飛躍し過ぎかもしれませんが、歴史をひもとけば、禁酒法でアルコールがなくなったわけではありません。より危険になり、命にかかわるような事態も起きてしまったことは忘れてはいけません。補完代替療法の問題は、厳罰主義では解決しないと筆者は考えます。

 では、医師が患者からの補完代替療法の相談に応じることに意味はあるのでしょうか?

緩和ケア領域の報告(文献2)になりますが、医師が補完代替療法の相談にのってくれることで、患者は希望を持ちながら心残りのないようにできたことが明らかになっています。

 患者にとってなかなか聞きづらい補完代替療法の疑問について耳を傾けることは決して時間の無駄ではないことを知ってもらえたらと思います。

[参考文献]

1)鈴木梢ほか、Palliat Care Res 12; 731-737, 2017.

2)Shirado, et al. J Pain Symptom Manage 45; 848-858, 2013.

大野智

大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、日本緩和医療学会ガイドライン統括委員(補完代替療法分野担当)も務める。