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 日米同盟と、軍事・経済で台頭する中国の現状をどう分析し、今後、日米はどのような道を歩むべきなのか。3人の識者に聞いた。

ハーバード大教授 ジョセフ・ナイ氏「中国との競争、誇張は心配」

 ――1990年代のクリントン政権で冷戦後の日米安保再定義を主導しましたが、当時の狙いは何ですか。

 「当時の日米関係は、緊張が高まり経済戦争に突入するのではないかという見方があった。一方で中国に対しては現在ほどの懸念があったわけではなかった。しかし、日米にはいくつもの共通する課題があり、その一つが中国の台頭をどうするかというものだった。その意味では、日米同盟を軽視するのは誤りであり、私たちは未来に向けて、日米同盟の重要性を再確認する必要があった」

 「51年の旧安保条約や60年の新安保条約が結ばれた時代は、冷戦とソ連の脅威に対する懸念があった。ソ連の崩壊後、日米同盟の役割は終わったという見方があったが、それは違った。中国の台頭という問題に、より注力するようになった。クリントン大統領と橋本龍太郎首相は96年の日米安保共同宣言で、日米同盟が冷戦後の東アジア安定の柱であると明言した」

拡大する写真・図版安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領=2019年9月25日午後0時18分、米ニューヨーク、岩下毅撮影

――現在の日米関係と、アジア太平洋地域における同盟の役割についてどう考えますか。

 「現在の日米関係は、かつてないほど重要なものになっている。日米の結びつきが強まることを中国が知ることで、中国が他国を脅して従わせるようなことができなくなる。これは国際関係におけるバランス・オブ・パワー(力の均衡)という基本的なルールだ」

 「これはリアリズムと呼ばれる考え方だが、リアリズムはあくまでもスタート地点であり、そこで止まるべきではない。安定の礎を築いた後に、何を求めるのかを自問する。日米が求めるのは、この地域の繁栄と民主主義だろう。その意味では、中国が自国のシステムを他国に押しつけることがないような力の均衡が必要だ」

 「私たちは同時に、中国を世界経済の中に組み込み、時が経つにつれて変化していくことも求めてきた。私たちはこの政策全体を、『Integrate but Hedge(統合させるが防衛策もとる)』と呼んだ。中国が他国をいじめようとしても日米が阻止できるようにする。しかし同時に、中国との貿易や社会的な接触拡大の機会を開くということだ。いずれも実際に起きたが、望んでいたほど起きなかったのは自由や民主主義の拡大だった。習近平(シーチンピン)国家主席は逆の方向に向かっている」

 ――中国を既存の国際システムの中に組み入れることや中国での民主主義拡大には、悲観的な見方もあります。

 「二つの側面がある。中国が既存のシステムを覆そうとしているというのは誇張された見方だ。中国は多くの国際機関に加盟して活動しており、既存のルールに基づく制度を守るという意味では、中国を含めることは可能だろう。一方で、中国の繁栄が中間層を生み、彼らが自由を求めるという期待については、失望する結果となっている。習近平時代の初期には多少そうしたことは起きたが、現在はむしろ、共産党の支配が強まる傾向にある」

 「現在、民主、共和両党の中にあるのは、中国が国有企業への補助金や知的財産の盗用など、公平な行動を取っていないという憤りだ。これはもしヒラリー・クリントン氏が大統領になっても同じだっただろうが、トランプ大統領がしていることは、この火にさらに油を注ぐことだ。仮にバイデン氏が大統領になっても中国に対する懸念は存在し続けるだろうが、私が心配するのは、これを新たな冷戦だと誇張して考えることだ。中国との競争関係は明らかに存在するが、協力をしなければならない分野もある。新型コロナウイルスのパンデミックや、気候変動がその例だ」

 ――国際秩序は長期的にはどのようになると考えますか。

 「国際秩序やすべての国々が恩恵を受ける国際的な公共財は、最大国による投資が必要だ。米国は経済力も軍事力も世界最大だが、中国経済も米国の3分の2の規模になっている。ルールに基づく制度作りに中国が加わるようにしていく必要がある。民主主義や人権といった価値観について中国を変えていくことは、短期的にはそれほど成功しないかもしれない。ただ中国もルールに基づく制度について利害を持っている。米国の指導力は引き続き重要だが、中国のことを考慮に入れる必要はある。その意味では日米の協力は決定的に重要だ。日米協力は中国の行動を決める環境を作る上でのてこになるからだ」

 ――トランプ大統領は現在の同盟は不公平だと不満を表明しています。

 「同盟国により多くの負担を求めるのは、トランプ大統領のはるか前から、歴代大統領が求めてきたことだ。しかし、トランプ大統領は戦後の大統領の中で唯一、同盟そのものに疑問を呈する極端な立場を取っている。もしバイデン氏が大統領になっても、欧州やアジアの同盟国は、防衛コストの一層の負担を求める声を米国から聞くだろう。ただ、米国が同盟の価値を疑問視することはなくなる」

 ――地域の安定のために日本が果たす役割をどう考えますか。

 「日米の防衛協力は、他国が日本を攻撃しようとすることを抑止するうえで有益であり、今後も軍事的に緊密な協力を続けていくことが重要だ。もう一つ、東アジアでの日本の重要な役割は政治・経済的な関係だ。国際協力機構(JICA)の南太平洋諸国との協力や東南アジア諸国への影響力といったものが良い例だ。軍事面だけでなく、日本は自らを経済的な大国と見なすこともできるし、平和的な大国にもなれる。日本は東アジアの安定を創造するうえで非常に大きな役割を果たしている」

 ――新型コロナウイルスの世界的流行は、国際社会における米国の地位に影響しますか。

 「短期的には、トランプ大統領の対応のまずさによって米国のソフトパワーは損なわれた。欧州や日本のような国々ほどにはうまく対処できなかったことは、米国の評判を傷つけた。ただ、米国が今後、失ったソフトパワーを回復できないとは思わない」(聞き手 大島隆

拡大する写真・図版ジョセフ・ナイ・ハーバード大教授

 Joseph Nye 1937年生まれ。クリントン政権で国防次官補などを務め、「ナイ・イニシアチブ」と呼ばれる日米安保再定義を主導した。著書に『国際紛争』『ソフトパワー』など。

前駐米大使・佐々江賢一郎氏「日本の反撃、憲法に反しない」

 ――米政権が対中強硬路線にシフトする背景は何でしょうか。

 「オバマ政権でも、尖閣諸島や…

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