拡大する写真・図版(C)伊藤理佐

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 このコラムでは、産婦人科医の立場で、みなさんに知っておいてもらいたい体と性の話をつづっています。今回は、若いみなさんの避妊法選択をいま一度考えてもらうためのお話です。

日本で圧倒的に選ばれるコンドーム

 わが国は、世界中どこの国にも見られないほどの「コンドーム大国」です。その理由は何かと尋ねられても明快な回答はありません。国連が発表している「避妊法選択2019」は、15~49歳の生殖可能年齢女性の避妊法普及率をまとめたものですが(表1)、これを見ただけでも、わが国におけるコンドーム普及率が異常に高く、女性が主体的に取り組める避妊法であるピル(経口避妊薬)がいかに低いかがおわかりいただけるでしょう。

 2016年に筆者が実施した全国調査「第8回男女の生活と意識に関する調査」では、「選択肢は二つまで」との条件を付けていますが、実に、女性の82・0%が「コンドーム」をトップに挙げ、次いで「腟(ちつ)外射精」19・5%という結果でした。

 このような避妊法選択の傾向は、若い世代でも同様です。「避妊を実行している」高校生・大学生が選択した避妊法について日本性教育協会が全国的な調査を実施しています(表2)。これによれば、高校生・大学生の男女ともに第1位は「コンドーム」で9割を超え、次いで「腟外射精」となっています。

 図1は、10代で人工妊娠中絶手術を受けた女性に「今回妊娠したとき避妊はしていたか」について問いかけたもので、腟外射精(24・4%)とコンドーム(19・0%)が大部分を占めるという結果でした。妊娠した10代の女性は、避妊をしていたと回答しているのです。残念ながら、「ピルを飲んでいた」との回答はありませんでした。「正しい使い方ができなかったからじゃないですか」という読者の声が聞こえてきますが、そうでしょうか。妊娠は女性だけが引き受けることを認識していたら、腟外射精やコンドームというように、避妊を男性任せにすることに無理があるのです。

 参考までに、フランス人女性が年齢によって、どのような避妊法を選択しているのかを紹介しましょう。フランスの研究チームが2010年に実施した調査によれば、15~17歳は、「コンドーム」が「ピルのみ」を超えていますが、18~19歳になると、「ピルのみ」が5割を超え、「ピル+コンドーム」を加えると8割近くとなっています。30歳を超えると、「IUD(子宮内避妊具)/IUS(子宮内避妊システム)」が増えていきますが、これらは産み終え世代の避妊法としてとても有効だからです。日本人のように、老若男女を問わず、性交頻度や妊娠を受容できる、できないに関わらず、コンドームと腟外射精が選択されることは世界的には珍しいことなのです。

避妊法を選ぶポイントは

 避妊法選択の理想条件について、僕自身は次のように考えています。

①確実な避妊ができる。

②使い方が簡単で、長期間にわたって使える。

③経費がかからない。

④副作用がなく、仮に妊娠しても胎児に悪影響が及ばない。

⑤セックスのムードを壊さず、性感を損なわない。

⑥男性の協力がなくても、女性が主体的に使える。

 残念ながら、この理想条件を完全に満たす避妊法はありません。例えば、コンドームは使い方が簡単で安価ですが、ゴムにアレルギーを示す人がいて、避妊効果もピルに比べて低いという欠点があります(表3)。繰り返しになりますが、妊娠が女性にのみ起こる現象であるにもかかわらず、男性のペニスに装着して妊娠を回避しようというのには明らかに限界があるのです。

若い世代に勧めたいピル

 ピルは、避妊法としての安全性、有効性が認められていることもあって、若い世代に最も推奨されるべき避妊法であるといえます(表4)。しかも、ピルには若い女性たちを悩ませている月経困難症や貧血、にきび、多毛の改善、月経血量の減少など避妊以外の利点が認められています。さらに骨盤内感染症、良性乳房疾患、卵巣がん、子宮内膜がんなどに対する予防効果なども報告されています。受験生などが月経周期の調節を目的にピルの服用を始めることなど決してまれなことではありません。

 セックスの際に使用するコンドームを否定するわけではありません。100%確実な避妊法がない以上、自分にとって何が優先順位の上位にあるかを常に考えなければなりません。その際、妊娠が女性にしか起こり得ない以上、避妊については、女性が主体的に取り組める方法、特に若い女性ではピルを最優先すべきではないでしょうか。しかし、ピルではAIDSを含む性感染症を防ぐことができません。そのためにはコンドームの使用が絶対に必要になるのです。先進国では、これをデュアルプロテクション(二重防御法)と言っています。すなわち、計画していない妊娠を防止するにはピルを、性感染症予防にはコンドームをという考え方です。

 避妊法としてコンドームの使用にそれでもこだわるのであれば、緊急避妊薬の存在を忘れないでください。避妊しなかった、避妊できなかった、避妊に失敗した、時にはレイプされたなどに際して、72時間以内にできるだけ速やかにレボノルゲストレル単剤(1・5ミリグラム)を1錠服用する方法です。これとて、妊娠を100%回避することはできません。

北村邦夫

北村邦夫(きたむら・くにお)

1951年生まれ。産婦人科医。自治医科大学医学部一期卒。リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の向上などをめざす一般社団法人・日本家族計画協会理事長。同協会市谷クリニック所長。(http://www.jfpa-clinic.org/) 予定外の妊娠の回避や、性感染症予防の啓発に力を入れている。著書に「ピル」(集英社新書)、「ティーンズ・ボディーブック(新装改訂版)」(中央公論新社)など。