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 選手数の減少が危惧される野球界にあって、中学生の硬式リーグは特別だ。この10年間ほど約5万人の選手数をキープしている。何か「秘密」はあるのか? 気になって有力チームを訪ねると、そこには興味深い指導方針があった。

 親に頼らない。準備と後片付けは選手自身で――。

 大リーグ・ヤンキースの田中将大らが輩出し、18年連続でOBが進学先で甲子園の土を踏んだ「宝塚ボーイズ」(兵庫県宝塚市)。プロ野球オリックスでイチローさんの打撃投手を務めたことで知られる奥村幸治さん(48)が率いる。

 練習中、グラウンドには保護者の姿がない。保護者はグラウンド内には立ち入らず、数人が外から練習を眺めているだけだ。

 奥村さんは打撃投手を退いた後、何度か高校野球の指導に携わる機会を得た。その際、グラウンド整備のおぼつかない選手が目についた。聞けば、中学時代のクラブチームではグラウンド整備や球拾いなどを保護者に任せていたのだという。

 保護者がグラウンドに散らばり、外野での球拾いや打撃マシンへの球入れ、練習後のグラウンド整備までを担うクラブチームもある。「全てのチームではないと思うが、親が整備し、子どもが柔軟体操をしているチームは実際にある。これはよくないと感じた」。選手が全てを担う高校野球の現場と乖離(かいり)している状況に危機感を抱いた。

 しかし、1999年のチーム結成当初から、いわゆる「お茶当番」など保護者が関わる当番は置いていない。理由は二つ。一つは保護者の負担を減らし、入団の垣根を低くすること。もう一つは選手に「高校野球への準備」をさせることだ。

 多くの高校と同様、チームでは、グラウンド整備や球拾い、打撃マシンの球入れなど全てを選手に担わせた。この方針に共感し、入団を決めた家庭は少なくないという。「本来は当たり前のこと。それを中学から身につけることで高校での適応も早くなる」と奥村さんは話す。

 「柏原シニア」(大阪府柏原市)の練習場にも、渡辺充監督(31)ら指導者以外、大人の姿はなかった。

 グラウンドの設営は言うに及ばず。チーム共用の飲料水も用意せず、あえて選手自身に用意させる。こうした選手主体のスタイルは思わぬ「副産物」ももたらした。当番制などによる指導者との接点がない保護者が、指導者と一定の距離感を保てるようになった。

 渡辺監督は「我が子かわいさに指導者との距離感をつかめない親御さんもいる。そういう意味では、保護者にとっても高校への準備ができる」という。

 長谷川天晴(てんせい)君(2年)は別のチームに在籍していたが、1年生の途中から柏原シニアに移った。高校で甲子園に出場するのが目標で「前は親にやってもらっていたことも、それぐらい自分でやらなあかんと思うようになった」。渡辺監督は「整備が甘くて打球がイレギュラーしても、飲み物を忘れても全て自己責任。高校野球を目指す子どもに、そういう厳しさを学んでもらうことも僕らの役割だと思います」。

 当たり前のことを、当たり前にできるように。野球を離れても大切な姿勢を学べるチームの存在は、選手が集まる理由と無関係ではないだろう。(河野光汰)

 中学、高校の野球人口 日本高校野球連盟によると、高校硬式野球部の部員数は5年連続減少中で、昨年度は15万人台を割った。日本中学校体育連盟によると、中学の軟式野球部に所属する部員数は2009年度の約30万7千人から、20年度は約16万4千人とほぼ半減。一方、硬式クラブチームの選手数は10年度から5万人ほどで推移している。宝塚ボーイズが所属する日本少年野球連盟(ボーイズリーグ)には国内最多となる713チームが加盟し、計約2万人の選手が所属する(20年7月現在)。柏原シニアが入っている日本リトルシニア協会には550チームが加盟する(19年4月現在)。