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 高校野球の決勝で試合終了の瞬間には、おなじみの場面がある。歓喜の輪だ。

 だいたいの場合、マウンドにいる投手を中心に、各守備位置やベンチから選手が集まって、喜び合う。2004年の夏、北海道勢として初めて全国制覇を果たした駒大苫小牧が人さし指を突き立てて喜んで以来、ほとんどの学校がそのポーズをまねている。

 1日、山形の独自大会決勝。鶴岡東は東海大山形を相手に、5点をリードして九回の守りを迎えた。先頭打者を左中間二塁打で出したものの、後続は中飛、遊ゴロと打ちとって、あと1人。そして打球が中堅手のグラブに収まってスリーアウトになると、全員がマウンドへ……、集まらなかった。

 いや、何人か集まろうとするそぶりは見せたのだが、にこやかに顔を見合わせると、淡々と整列。試合終了のあいさつをした。

 コロナ禍にあって密集、密接は生活のあらゆる場面で避けられている。独自大会の開催にあたっても、日本高野連は「円陣を組むなどは密集にならないように配慮し、マウンド上で集合する時はグラブを口に当てることとする」など、感染防止対策ガイドラインを作成。山形をはじめ、各都道府県の高野連はこのガイドラインに基づき、独自の対策も盛り込んで大会を実施している。

 それでも優勝の瞬間だけは例年通り、高校球児は抑えきれない喜びと達成感を爆発させ、体をぶつけあう。

 なぜ、鶴岡東は歓喜の輪をつくらなかったのか。密になるのはやめておこう、コロナ禍だから、喜ぶのは控えめにしておこう、そんな話をしていたのだろうか。

 その瞬間、マウンドにいた投手の小林三邦(3年)は、「いや、みんな来ると思っていたのですが、あれっ?と思って。自分が最後、二塁打を打たれたからですかね。(歓喜の輪)やりたかったっす」と、ちょっと悔しそうだ。

 捕手の北原晴翔(3年)は、中堅手が捕球してスリーアウトになると、マウンドへと駆けだした。「よっしゃ!と思ったのですが……。誰も来ないし、あれっ? と。だから、(本塁方向へ)戻ってしまいました」と苦笑いする。

 みんながみんな、お互いの動きを見すぎた結果、タイミングを逃してしまったらしい。「自分も集まろうと思ったのですが……。なんでみんな(マウンドに)来なかったんだろ。抱きつく準備はしてたんですけどね。でも、まだ東北大会がありますから」と主将で右翼手の鈴木喬(3年)。東北チャンピオンになって、きょうのぶんまで体全体で喜ぶ。(山下弘展)