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 東京五輪・パラリンピックは新型コロナウイルスの影響で来夏に延期となりました。国内外で感染拡大が収束する見通しは立たないなか、国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会は安全・安心で、簡素な大会の開催に向け、準備を進めています。果たしてどうなるのか。オンラインフォーラムの場や、アンケートに寄せられた声から、大会の行方を考えてみました。議論の広場「フォーラム」ページはこちら

「五輪だけ特別視できぬ」組織委幹部x日本代表・柳田主将 議論

 オンライン記者フォーラム「どうなる五輪 日本代表と組織委幹部に直撃取材」を7月22日に行いました。バレーボール男子日本代表の柳田将洋主将、大会組織委員会の中村英正・開催統括、稲垣康介編集委員が開催のあり方などを議論しました。司会は社会部の伊木緑記者。

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 大会の1年延期が決まった3月、柳田選手は所属していたドイツのチームに促され、日本に帰国していたそうです。

 柳田将洋選手 「2週間の自主隔離中でホテルにいた時に延期を聞きました。直後はショックだったけど、ドイツで感染拡大を目の当たりにしていたので心構えはできていました」

 一方、中村・開催統括は国際オリンピック委員会(IOC)などとの折衝を担当していました。

 中村英正氏 「感染が広がる中、どうなるんだろう、という不安は組織委職員の中にもあった。大きな会議を立て続けに行い、3月末にはスピーディーに延期が決まりました。社会全体の『延期で大丈夫』という思いが反映されたと思っています。来年はどうなるのか。色々な意見があると思うけれど、特別な決断が行われるのではなく、社会全体が判断するものだと思います。他のスポーツ大会の状況も見ていく。オリパラだけを特別視するわけではありません」

 このイベントを視聴した約1千人に、東京五輪・パラリンピックをどうするべきか、受付時に聞いたところ、来夏の開催が5割弱、再延期が3割超、中止が2割弱という結果になりました。

 柳田 アスリートとしてはうれしいけど、(感染が再び広がっている)今もう一回アンケートしたら結果に変化があると思います。

 中村 私も感染状況が分かるたびに気持ちが上下左右に揺れている。この結果はうれしいけど、アスリートに安全安心にパフォーマンスしてもらう準備をするだけです。

「開催可否、来春までに判断」「選手、半年は準備期間必要」

 開催可否の判断時期、開催される場合はどんな形が望ましいのか、について、議論は白熱しました。

 稲垣 年内に開催の可否の判断をするということはないですよね?

 中村 今はとてもそういうことが分かる状態ではないと思っています。アスリートは来年に向けて準備している。それに報いるために準備するのが組織委の立場。粛々と準備する点で根っこは同じです。

 稲垣 どれくらい準備期間があれば選手として準備ができますか?

 柳田 自粛期間があけて、やっと競技ができるようになった状況から逆算すると、半年はないとベストコンディションを作るのは難しい。状態が仮によくなっても実戦経験が積めないという問題もある。2~3カ月の準備では満足いかない状態で試合に向かうことになります。

 僕は東京五輪で結果を出したいと、7年前からずっと思ってきました。だからどういう状況でも対応したい。たとえ無観客になったとしても。例えば感染者数に応じて無観客にするとか、何が基準や分岐点になるかを事前に分かっていれば、僕らも会場の状態をイメージして練習や試合をすることができます。

 中村 今は論点整理をしている状態ですが、説明することで皆さんの練習に身が入る状況を作るのが大事。しかし(数値的な)基準を設けて観客をどうする、と説明するのは難しい。来春までに野球やサッカー、他の国際大会の状況でおのずと判断できると思う。なるべく早く伝える義務があると思っています。

「無観客でも価値変わらない」

 組織委が進める大会の簡素化。アンケートでは開閉会式や聖火リレーの中止や縮小、無観客試合という意見に賛同が集まりました。

 中村 コロナで世界が根本から変わった。だから、大会も変わってしかるべきです。祝祭感はそぎ落として、アスリートの肉体がぶつかり合うというシンプルなメッセージに焦点を当てることが来年の大会の一番大事なところになると思います。

 稲垣 しかしIOCのバッハ会長は「最適なバランス」を求め、組織委の森喜朗会長は「シンプルにすることは難しい」と発言しています。

 中村 総論賛成、各論反対はよくあること。スリム化をめざした昨年までは向かい風が強かったけれど、簡素化に向けて我慢や妥協をしようという方向性にはなっています。

 稲垣 開会式の中止や無観客試合は選手目線でありだと思いますか。

 柳田 アジア大会で開会式に出た時、競技に気持ちを切り替えるスイッチになった。(もし開会式がなくなるなら)選手としてスイッチを入れる何かを作らないといけない。無観客の経験はないですが、観客の後押しは大きなパワーになります。地元で開催できるのに無観客だとアドバンテージが削られる可能性はある。でも、僕にとっての五輪の価値は変わりません。

 稲垣 デジタル技術で試合中にファンが文字や声で応援することもできます。

 柳田 うれしいと思うけど、試合中はテキストを見る余裕がない(笑)。声援の方がいいと思います。(まとめ・野村周平、山本亮介

感染対策 観客減らす可能性

 新型コロナウイルスの影響で延期となった東京五輪。1年後の開催に向けた準備には、二つの大きな柱があります。大会の簡素化と新型コロナウイルスへの対策です。

 簡素化は9月末に大枠合意をめざしています。史上最多の33競技339種目と約1万人の出場選手は維持しつつ、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会が中心になり、250項目を洗い出しています。選手村の滞在日数の短縮など議論が進む項目がある一方、開閉会式の時間短縮などはテレビ放送などの関係で難航しています。延期に伴う追加経費の規模も秋に公表される予定です。数千億円とされる経費の分担は、国、東京都、組織委、IOCで協議します。

 新型コロナ対策は、秋以降に議論が本格化します。国、都、組織委などは専門家を交えた会議を9月に設置する予定です。他のスポーツ大会で行われている観客の削減について、IOCのバッハ会長は7月に「我々が望む形とは違う」と述べながらも「渡航制限などの状況によってはシナリオの一つに入る」と話しています。

 感染症対策について、組織委などは年内に中間のとりまとめを行う予定です。日本側の大会関係者は「専門家会議の議論次第で観客を減らす可能性もある」と話しています。関係者の間では「観客を日本在住者に限る」「学校向けの観戦チケットを見直す」などの案があります。(前田大輔)

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 新型コロナウイルスの感染拡大で来夏に延期された東京五輪について、皆さんはどう考えているのでしょうか。フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

●開催費をコロナ対策に

 世界規模の緊急事態なので、早急に中止を決断して費用をコロナ対策や自然災害対策、復興にまわすべきだ。これを機に今後の五輪のやり方も見直すべきだ。世界一の選手を決めたり、スポーツの素晴らしさを伝えたりは各競技の世界大会でできることだと思う。(東京都・30代女性)

 

●生命の危険思いやるべきだ

 コロナ終息の兆しも見えないなか、無観客だろうと簡素化しようと、開催する意義を感じない。共生社会の実現をめざすのであれば、そこまで到達できるかどうか生命の危険がある人々が世界にいることを思いやるべきだ。参加国を絞ることもごうまんだと思う。(埼玉県・70代女性)

 

●安易に中止すべきでない

 観客数の大幅減や消毒作業の徹底により、感染リスクを減らすことで対応すべきだと思う。スポーツに打ち込む者にとって五輪は4年に1度の人生の転機、安易に中止すべきではない。(東京都・20代男性)

 

●アテネ開催で固定しては

 16年前のアテネ大会を現地で見たが、雰囲気、天気ともに素晴らしかった。近代五輪がスタートした地であるアテネに開催地を固定し、参加国が国力に応じて費用を負担してやる。(東京都・70代男性)

 

●選手の気持ち考え中止を

 感染を抑えられず、来年ももしかしたら中止になるかもしれない。薬もなくそんなあやふやな状態で選手はどうやってモチベーションを保てばいい。できるかもしれないにかけるより、早急に中止して確実にできる時期を目標にすればいい。(東京都・50代女性)

 

●4年繰り下げ開催を

 本音を言うと来夏に開催してほしいが、世界の現状を踏まえると厳しいと思う。しかし、このまま中止になればこれまで投入した税金が全て無駄になるため、東京以降の開催地を全て4年繰り下げて開催し、2024年に開催するか、開催地が未定である32年の開催をIOCに提案すべきだ。(茨城県・20代男性)

 

●未開催都市に譲るべきだった

 元々立候補したときから反対。初開催の都市が立候補していたのだから、降りればよかったと思っている。(埼玉県・50代女性)

 

●五輪の意義問い直す機会に

 現状では海外から大人数を受け入れられる態勢が来夏までに整えられるとは到底思えない。様々な所に影響が及ぶことを考えると、早期に中止を決断し、負担を減らすべきだ。せっかく造った競技施設を無駄にしないためには、市民スポーツのすそ野を広げるための施策を考えた方がいい。また、肥大化した五輪の意義を問い直すにはよい機会が与えられたと考えるべきだ。日本が率先して五輪の今後を考え、リスクマネジメントを含め提案できるようになるといい。(神奈川県・40代)

 

●最新技術活用で収益を

 今回を機会に全世界の人が安価にライブ感を味わえるようになればと思います。今は通信網も発達し、5GならWEB観戦とバーチャル応援も可能な時代になっています。観戦できる位置も金額で差をつけ、各自がVR機器をつけて観戦する形にすれば、観客数を大幅に増やして、収益を上げることが可能になる。会場での観戦は対策を万全にし、将来のアスリートや小中学校の修学旅行ルートにしては。(神奈川県・50代男性)

 

●日本経済考えれば開催

 日本経済のことを考えたら、開催したい。徹底的な感染対策をすれば大丈夫なのでは。(三重県・20代女性)

 

●震災復興優先して

 震災復興を優先すべきだ。復興五輪と言っているが、東北にはほとんどメリットがない。(宮城県・50代女性)

 

●各国開催で感染拡大防止

 それぞれの国で、タイムを記録して競い合う方式にて開催する。人と人との接触は減らせるし、国をまたぐ移動もなく広範囲への感染を防ぐことができる。(神奈川県・40代男性)

 

●十分なワクチン間に合うの

 来年の夏までに新型コロナが終息するとは思えない。どこか複数の国で第2波に見舞われたり、選手や海外からの観客が無症状で自覚のないまま来日してその後に発症したりするケースも考えられる。タイプの異なるコロナが持ち込まれる可能性もある。たとえ有効なワクチンができていても十分な量が間に合うのか。タイプの異なるコロナにも有効なのか。経済や国家の威信は国民の健康より大事なのか。(海外・70代女性)

 

●来夏ならボランティア辞退

 私は五輪ボランティアに参加します。この不安な状況が1年で収まらず、それでも開催するなら辞退しようと思います。2年後の開催ならまだみんな安心できると思います。(岐阜県・40代女性)

 

●マイナー競技のみで五輪を

 簡素化するアイデアとして、マイナースポーツだけに絞ることができると思います。サッカーやテニス、陸上などは各競技ごとにワールドカップや世界大会が開かれているからです。五輪でやる必要があるのか、検討すべきだと思います。また、資金繰りですが、それこそクラウドファンディングを利用して、資金集めをしてもいいのではないでしょうか。世界から資金を集めることが可能になりますし、開催したいと強く願う個人はいるのではないでしょうか。(東京都・30代女性)

 

●遅くとも今秋に判断を

 遅くとも秋には中止を決定すべきだ。忘れてならないのは、パラリンピックの選手たちの健康問題もある。医学的にもハンディキャップを抱えている方がコロナに感染した場合、重症化の可能性があると指摘されている。人生はメダルよりも命が大事だ。(東京都・50代女性)

 

●五輪は誰のため?

 今の五輪は、国民、スポーツ選手のためというよりも国際オリンピック委員会(IOC)存続のためにやるのかと思わざるを得ない。開催費用(税金)は莫大(ばくだい)だし、コロナの影響での延期でも追加費用は日本持ち。米国の放送局の莫大な放映権料のため、開催時期も選べない。ばかばかしいにもほどがある。IOC存続、米国の放送局のために開催するのか。米国、ギリシャなど固定の地域で開催すればいい。(千葉県・50代男性)

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 私たちはここ数カ月、無数の「もしも」と共に生きています。「もしも」また休校になったら、「もしも」第2波が来たら、「もしも」自分や家族が感染したら――。状況が変わるたび、プランB、プランCを書きかえながら暮らしています。

 東京大会も、どんな条件下でなら開催できるのか、水面下では様々な検討がなされているはずです。でもそれは表に出ないため、開催ありきで突き進んでいるように映ります。

 中村さんは「五輪だけが特別ではない」とし、社会の状況を反映した決断がなされると強調しました。ならばあらゆるシナリオを示しながら、オープンな議論をしてほしい。今回、苦悩の元凶は五輪も私たちの生活も同じ。さらけ出した方が大会への共感を呼べると思うのです。(伊木緑)

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 大会の1年延期に至る経緯で前面に出たのは安倍晋三首相ら政治家でした。スポーツ界の存在感は希薄でした。今回、柳田選手が大会組織委の中村さんに質問をぶつけました。「感染者数がどれくらい増えたら無観客開催もありうるか、といった基準があれば」。中村さんは「基準は難しい」と正直に答えつつ、今後、新型コロナ対策など「まず疑問に答える宛先はアスリートだと思います」と続けました。

 国内外の感染状況を見れば、来夏の開催は容易ではなく、世論も懐疑的です。アスリートは組織委に舞台を用意してもらう傍観者に甘んじてはダメだと思います。開催の方向性についてタブー抜きに発信する。本来の主役である選手からの声が高まれば、組織委の意思決定に影響を与えるはずです。(編集委員・稲垣康介)