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 「一、二塁にランナーがいるぞ」

 6月、国際学院(埼玉県伊奈町)の紅白戦。バックネット裏にいる斉藤塁君(3年)のイヤホンに、立原誓也監督のこんな実況が次々と届いた。

 斉藤君の視界はもやがかった感じで、視力がよくない。試合の流れをつかむには、耳から入ってくる情報が欠かせない。

 目に異変を感じたのは昨年の夏ごろだった。野手の守りで、なんでもないゴロがグラブにおさまらないことが増えた。バットを振っても球に当たらない。内野でも打席でも、球が急に消えてしまう。

 視界の中心に「ざらざらした」感覚を感じるようになり、徐々に視界がふさがった。左目、そして右目と。レーベル遺伝性視神経症だった。診断を受け止め切れず、判明した夜は気を紛らわすように、泣きながら素振りを何百回と繰り返した。

 「治ったときにすぐ野球ができるように」。持ち前の明るさで、弱音を吐かず、ひたすら筋力トレーニングや素振りを一人、続けた。

 それでも、グラウンドから聞こえてくる仲間の大声や打球音を耳にすると、やりようのない悔しさが広がった。白球を追えない悲しさ、つらさがふつふつとわき、どうしようもなく苦しかった。

 一転、斉藤君が仲間と「試合」を実感できるきっかけが生まれた。

 新型コロナ禍で臨時休校が続いたとき、部ではビデオ通話などができるアプリを使い、監督や部員がコミュニケーションが取れるようにしていた。斉藤君もイヤホンを耳につけ、仲間と会話した。この時、立原監督は「実況中継」を思いついた。「これなら(斉藤)塁に試合を感じさせることができる」

 試合中、相手投手の球種や打球の行方、アウトカウントなどを斉藤君に伝えることで、試合の流れを共有できるというわけだ。

 「さっきの投手の調子は悪かったですよね」「2死であの判断の理由は何ですか」。実況を聞いた斉藤君が、こんな質問をすることもしばしば。やりとりが生まれるため、チームの一員であるという気持ちを強く感じる。

 独自大会初戦の10日は、背番号20をつけてベンチ入りする。イヤホンはつけない。試合の指示に専念する立原監督に代わり、川島亮樹部長から直接、試合展開を聞く予定だ。