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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う4~5月の緊急事態宣言の中、多くの保育園が「休園」した。保護者は、保育園の現場はどう感じ、どう行動したのか。

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 「もう1カ月は、とても無理」。4月末、当初5月6日までとされた緊急事態宣言の延長が取りざたされ始めた時、東京都中央区で2歳の娘を育てる向山淳(むこうやまじゅん)さん(36)はそう感じた。

 自らはシンクタンク研究員で、夫は会社員。勤務先の方針もあり、宣言前から在宅勤務を始めた。やむを得ないと考えていたが、「未就学児を抱えての在宅勤務は思った以上に難しかった」。仕事自体が軽減されるわけではない。でも娘を一人にしておくわけにもいかない。結果、夫妻ともにパフォーマンスが落ち、焦燥感が募った。

 同じ悩みを抱える知人らと、首都圏で未就学児を持つ親にネット上でアンケートをした。5月4~10日で1723件(有効回答1634件)の回答があった。65%(複数回答)が「(在宅勤務中)仕事を中断して子どもを世話している」。37%(同)は「深夜や早朝、週末に仕事の穴埋めをしている」とした。

 自由記述にも思いがつづられた。「日中は最低限の連絡のみで、夜間に仕事をしている」「子にユーチューブをずっと視聴させてしまっており、心配」「もう仕事を辞めようかと思うくらい、つらい」。その一方で、多くの親は当然、感染への不安を抱いていた。

 向山さんらは「自宅保育と在宅勤務の両立は難しい」とした上で、感染対策をとって休園を解除すること、ベビーシッターの利用支援などを求める提言をまとめ、中央区に提出。宣言解除後の6月には自民党女性局を訪れ、「第2波では保育園の休園について慎重な判断を」「保育士の待遇改善を」などと要望した。

 向山さんは、「会社も保護者の側も『休園』への備えがなかった。休園解除で終わらせずに考えていくことが必要だ」と話す。

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 保育園も悩みの連続だった。ある園が、保護者に出した「手紙」を手がかりに、園の苦労をたどる。

 不安な時は一緒に揺れましょう。命は命をもって守ります。ただし私達にもできること、できないことがあります。(4月6日)

 緊急事態宣言の前夜、世田谷区の認可園「上町しぜんの国保育園」の青山誠園長(43)は保護者向けに、連絡用アプリを通じて長文のメッセージを出した。

 区から園に「臨時休園に備えを」との連絡があったが、正式な方針は未定。保護者とのコミュニケーションをこれまで以上にとるべきだと考えた。園を閉める法的根拠がないこと、園は子どもの命と健康を第一に全力を尽くすが、限界もあることも正直に書いた。

 「社会生活の維持に必要な仕事」について、すべての方が該当するものとみなす。自粛を要請されたくらいで(職場との)調整は困難であることを、園としても踏まえる。在宅ワークの親も後ろめたくなく登園できるようにする。(4月10日)

 この日、区は登園自粛を要請しつつ、社会生活の維持に必要な仕事に就いている保護者などには保育を実施、と利用者に通知した。だが、議論もされていない職業の限定をそのまま保護者に投げれば困惑するのは明らかと感じた。疑問を呈し、広く受け入れる考えを伝えた。窓口になる自分たちが柔軟にやるしかない、と腹をくくった。

 家で煮詰まってしまって、親も子もどうにもならない。急な仕事が入り、どうしても家にいられない。という場合は相談にのります。当日でもいいので電話ください。(4月18日)

 感染拡大を受け、区は17日、自粛要請から「休園」にカジをきる。園も「在宅勤務の家庭は、原則預かれない」との方針を示さざるを得なかった。ただ、自宅保育が簡単ではないことは分かっていた。散歩に出た際に楽しめるよう園の前でポップコーンを配ったり、ユーチューブでダンスや料理の動画を配信したり。保護者からも意見を募り、様々な工夫をした。4月30日には在宅勤務の人向けに、数時間限定的に預かる枠を設けた。

 おとなも大混乱でしたが子どもだって同じ。園ではひとりひとりの様子に寄り添っていきたいと思います。(5月29日)

 宣言が解除され、6月1日には保育園に子どもたちが戻ってきたが、噴出した様々な問題は、未整理のままだ。青山園長は「園が休めない。子どもの最善の利益のための場なのに親の就業保障という面が強く、働き方、子どもとの暮らし方に選択肢が少ない。保育士の社会的認知が進まず、待遇も勤務の実態に即していない。そんな元々あった問題が噴き出した。今回一人ひとりの中で渦巻いた感情を元に、保育園も保護者も自治体も議論をしないといけない」と話す。(千葉雄高)

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