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 「観戦じゃんけん」という遊びを知っていますか?

 プロ野球のファン同士が、現地で観戦した「すごい試合」を繰り出していき、お互いがどれほどディープなファンなのかを瀬踏みしていくのです。

 夜のクラブで働く女性が、お客さんからもらった名刺の肩書の偉さや企業の知名度を競う「名刺じゃんけん」という遊びからヒントを得たもの。筋金入りの中日ドラゴンズファンである朝日新聞記者の中島鉄郎さんが、コラムの中で提唱しました。

 コラムや、ツイッターの朝日新聞ドラゴンズ担当のアカウント(@asahi_dragons)でハッシュタグ「#観戦じゃんけん」をつけた投稿を呼びかけると、野球ファンの間で、このハッシュタグをつけたツイートがじわじわと広がっています。

 たとえば、2000年9月24日の巨人―中日戦。中日の4点リードで迎えた九回裏、抑えのギャラードが江藤に満塁本塁打、二岡にサヨナラ本塁打を浴びて、巨人のリーグ優勝が決まりました。この試合を「観戦じゃんけん」に挙げた中日ファンの方は「もうありとあらゆるゴミをグランドに投げ入れてドームから飛び出して行ったな」と振り返りました。

 このファンの方はせつない思い出とともにもう一つの「切り札」を繰り出しています。10年6月2日のオリックス―中日の交流戦。八回表まで7―0とリードしていたのに、その裏に7点を取られて延長戦に持ち込まれ、十一回にサヨナラ負けしました。「優勝試合も色々見てるけどやはりこれ。(中略)千葉県から日帰り弾丸観戦予定が最後まで見たら帰り夜行バス間に合わず…記念すべき12球団全本拠地観戦達成試合になりましたね…」と投稿しました。

 05年のパ・リーグのプレーオフ第2ステージ第3戦のロッテ―ソフトバンク戦を挙げたのは、ロッテファンの方です。リーグ優勝に王手をかけた試合で九回、ソフトバンクに抑えの小林雅が4点差を追いつかれ、十回にサヨナラ負け。「マリーンズ31年ぶりのリーグ制覇の瞬間に立ち会えると思った9回裏、幕張の防波堤が大決壊したあの瞬間はなんとも言えない喪失感でいっぱいになった…球場で本泣きした唯一の試合かもしれない。。。」とつぶやきました。

 「#観戦じゃんけん」の広がりはプロ野球にとどまらず、大リーグや大学野球、サッカーのアジア・チャンピオンズリーグの試合を挙げる人まで現れました。切り札の内容も、惨劇にはじまり、無安打無得点試合や引退試合、大乱闘など多彩。思い出のチケットやスコアボードの写真を添えてつぶやく人もいます。

 中島さん自身は「『観戦じゃんけん』で最も価値があるのは、マニアックな試合より、ドラゴンズの悲惨な負け試合であると思う」と言います。熱烈なファンからすれば、「優勝がかかった試合を見るのは当たり前だし、簡単だろうよ」なのだと。そして、コラムでこうつづっています。

 「誰に怒りをぶつけたらいいか分からぬまま帰路につく。貴重な時間をクソ試合に無駄に費やした自分の愚かさを嘆く。そもそもなぜこんな試合を見に来てしまったのか、とうめく。

 そして長い内省の時を経てようやく、このチームを愛するなら、ときには深い漆黒の夜も甘受するしかない、とさとるのである」(金島淑華)