[PR]

(8日、三重独自大会 いなべ総合 3 - 2 松阪商)

 同点に追いつかれた九回裏2死満塁、松阪商のエース、松山心君(3年)は自らに言い聞かせた。「絶対に抑える」。だが、下半身は悲鳴を上げていた。高めに浮いたチェンジアップを右方向に打たれたことで、サヨナラ負けとなった。

 生まれつき左耳は聞こえず、右耳は補聴器をつけている。中学時代は県立聾(ろう)学校に通っていたが、甲子園をめざすため、あえて松阪商に入学した。

 だが、チームメートとコミュニケーションをとるのに苦労した。自分から話しかけることはできず、練習も休みがちになった。中学のときは、周りがサポートしてくれたが、高校ではそうはいかなかった。「なんでみんな分かってくれないんだ」。チームメートとつかみ合いのけんかになることもあった。それでも野球を続けたのは、「自分で決めたことはやめない」という信念からだった。

 昨秋の地区予選での好投が評価され、県大会ではエースナンバーの「1」を与えられた。試合後、「良かったぞ」と声をかけてくれるチームメート。それがうれしかった。「夏もエースナンバーをつけたい」。そんな思いが芽生えた。

 新型コロナウイルスの影響で休校になった際も、走り込みや筋トレを続けた。昨秋は120キロ台だった球速は、休校明け初の練習試合で141キロを記録。その後も球速は伸び続けた。

 終盤に足をつった3回戦と準々決勝の激戦を1人で投げ抜いた。準決勝では、いなべ総合打線を七回まで無失点に抑えた。この試合で投げた渾身(こんしん)の151球。「みんなに囲まれながら野球ができて楽しかった」。試合後は笑顔だった。(大滝哲彰)